
電気・電子回路におけるオペアンプ応用回路 -2段増幅(1)-
①はじめに
オペアンプ増幅回路について、実務としての回路設計では、実際のオペアンプICの特性による制限を考慮して、要求仕様に対して必要十分な回路にしなければなりません。
今回から数回にわたって、具体的な回路例を取り上げて、実用回路設計に必要な検討事項を考えてみます。
②実用回路設計に必要な検討事項
ゲイン変更と周波数特性、1段増幅
シミュレーション
シミュレーションファイル「反転アンプ1段_ゲイン_10_100.asc」を参照してください。
出発点となる回路は、実績のある現行製品の回路、文献に記載されている参考回路などを想定しています。この回路は、DC~20KHz、0.1Vの入力信号を10倍増幅して1Vの出力信号とする反転アンプです。使っているオペアンプICは、汎用タイプのオペアンプICで、その特性は、オープンループゲイン100dB、GBP(利得帯域幅積)1MHzです。入力抵抗は10KΩ、帰還抵抗は100KΩで、一般的な値と言ってよいでしょう。反転アンプの遮断周波数fcを計算すると、fc=GBP/(反転ゲイン+1)=1MHz/11≒91KHzとなります。オペアンプ回路の周波数特性については、第91回~第92回を参照してください。
第91回
第92回
目的とする回路は、DC~20KHz、0.01Vの入力信号を100倍増幅して1Vの出力信号とする増幅回路です。まず、元の回路の帰還抵抗を10倍(100KΩ→1MΩ)して、ゲインを10倍から100倍にしてみます。シミュレーション回路の出力を見ると、20KHzの信号に対して、明らかにゲインが不足しています。AC解析で、周波数特性を見てください。遮断周波数が低すぎることが確認できます。遮断周波数を計算してみると、fc=GBP/(反転ゲイン+1)=1MHz/101≒9.9KHzとなります。
これを解決するために、「より広帯域の(GBPが10MHz程度の)オペアンプICに変更すればよい」のですが、ここでは、「同じオペアンプICで2段増幅する」方法を検討してみます。
ゲイン変更と周波数特性、2段増幅
シミュレーション
シミュレーションファイル「反転アンプ2段_ゲイン_100.asc」を参照してください。
元のゲイン10倍のアンプを2つ縦続した2段構成のアンプです。出力信号を見ると、ほぼ、満足できる特性と思われますが、周波数特性を少し詳しく検討してみましょう。
各段とも、遮断周波数fc ≒91KHzの1次ローパス特性ですから、これらが合成されて、2次のローパス特性となり、遮断周波数(-3dB)も7割ほどに低くなり、60KHz程度です。シミュレーションファイルには、理想オペアンプによって、1段増幅回路と同じ1次特性を示す回路を収めてありますので、AC解析で比較、確認してみてください。反転アンプ2段増幅では、出力は入力と同相、つまり、アンプ全体では非反転アンプとなります。これでもよいかどうかは、このアンプが使われる装置、システム全体に関わることなので、ここでは判断できません。
1段目のゲインを2倍、2段目のゲインを50倍とした回路も収めてあります。周波数特性は、均等にゲイン配分した回路よりも悪くなります。しかし、周波数特性以外の点を考慮しなければならない場合には、「均等なゲイン配分」が最良の選択ではないこともあり得ます。
非反転アンプの場合も、同様な2段構成を検討することができます。
シミュレーション
シミュレーションファイル「非反転アンプ1段_ゲイン_10_100.asc」、「非反転アンプ2段_ゲイン_100.asc」を参照して、考え方をたどってみてください。
なお、非反転アンプの遮断周波数fcの計算は、fc=GBP/(非反転ゲイン)=1MHz/10=100KHzとなります。
今回のまとめ
次回以降は、今回の回路に、いくつかの要求条件が追加された場合の2段増幅について取り上げてみたいと思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、アナログ・デバイセズのサイトよりLTspiceをダウンロードしてご利用下さい。
当社が運営している、電子部品・半導体ECサイト『オリナス.ネットhttps://www.olinasnet.com』では、アナログ・デバイセズ製のオペアンプを在庫しております。各部品は小ロットからの販売はもちろん、不具合解析や環境調査も対応可能でございますので、ぜひ、こちらのサイトもご覧下さい。