
電気・電子回路における電源回路の基礎 -ツェナーダイオード+トランジスタ(8)-
①はじめに
電源回路の出力端には、出力コンデンサが付加されているケースが多いと思います。しかし、よく考えてみると、定電圧電源回路の出力にコンデンサがあることは、不自然ではないでしょうか。トランジスタ、ICなどを使った定電圧電源回路は、電圧出力アンプと考えられますので、容量性負荷を接続すると不安定になる可能性があります。
3端子レギュレータICのデータシートなどには、出力コンデンサについての注意点(推奨容量、種類など)が記載されていますし、「出力コンデンサにセラミックコンデンサを使用可能」などの言葉を見かけることもありますので、出力コンデンサを付加する場合には、十分な検討が必要です。
出力コンデンサを付加する目的は、定電圧電源回路単体では対応できない高速負荷変動に対する過渡応答の改善と思いますので、この効果について調べてみましょう。
②ツェナーダイオード+トランジスタ
シミュレーション
シミュレーションファイル「ZD+Tr+出力コンデンサ_負荷変動_過渡特性.asc」を参照して下さい。
電源回路は、ZD+エミッタフォロアで、出力コンデンサ無し、1000pF、0.01μF、0.1μF、1μFの回路を比較しています。
各回路の出力に電圧制御電流源を接続し、制御電圧によって負荷電流を変化させており、50mA+変動成分10mAを負荷電流としています。負荷電流の変動成分は、100KHzの矩形波形状で、立ち上がり、立ち下がりは、ともに10nsで、かなり高速にしています。
過渡応答比較
出力コンデンサによる過渡応答の違いを見て下さい。まとめると、以下のようになっています。
出力コンデンサ無し・・・・・約8mVのオーバーシュート、リンギングなし
出力コンデンサ1000pF ・・・約10mVのオーバーシュート、リンギングあり
出力コンデンサ0.01μF ・・・約3mVのオーバーシュート、軽度のリンギングあり
出力コンデンサ0.1μF・・・・オーバーシュートなし
出力コンデンサ1μF・・・・・オーバーシュートなし
この結果を見ると、出力コンデンサを0.1μFとすれば、過渡応答を十分に改善できています。しかしながら、出力コンデンサ1000pFの回路では、出力コンデンサ無しの回路よりも過渡応答が悪くなっています。この原因追及は困難ですが、出力コンデンサの付加については、慎重に行うべきであることは明白になったと思います。
シミュレーション
シミュレーションファイル「ZD+Tr+出力コンデンサ_負荷変動_周波数特性.asc」を参照して下さい。
上記結果を周波数特性の面から調べてみました。
出力コンデンサ1000pFの回路では、60MHz付近に振幅特性のピークがあり、位相も急変していますので、オーバーシュート、リンギングが発生していることが納得できます。出力コンデンサ0.01μFの回路にも軽度のピークが見られるので、過渡応答改善の上記傾向と合致しています。出力コンデンサ0.1μF、1μFの回路では、高域でなだらかに下降する特性となっていますので、改善効果を裏付けるものと思います。
今回の一言
さて、前々回と今回、高速な負荷変動の過渡応答をシミュレーションしてきましたが、「電流源を負荷としていることに問題が無いのか」という疑問があることに留意して下さい。結果についての大雑把な傾向は捉えられると思っていますが、今のところ確証はありません。後日、検証して報告したいと思います。
次回は、FETを使った回路など、いくつかの応用回路を作って調べてみたいと思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、アナログ・デバイセズのサイトよりLTspiceをダウンロードしてご利用下さい。