
第1回のテーマとしてCR1次フィルタを取り上げます。簡単で、どなたでもご存知の回路ですが、すべての電子機器に存在する回路要素でもあります。たとえ回路図に書かれていなくても現実の回路には存在します。
どのような出力端子であっても、出力抵抗がゼロではありませんし、あらゆる入力端子には入力容量があります。単なる接続部分であっても、配線抵抗、配線間容量があるわけです。これらの寄生素子の値は小さいため、寄生素子同士の組み合わせは、通常は無視できます。しかし、部品として実装されている抵抗と寄生容量、あるいは、コンデンサと寄生抵抗の組み合わせによるCR回路は、しばしば問題を起こします。
よく見かける部品の代表として10KΩの抵抗の場合を考えてみます。寄生容量10pFとの組み合わせで、時定数=100nS、カットオフ周波数=1.6MHzです。目的とする回路動作によっては無視できない可能性があるでしょう。
寄生素子としては、インダクタンス成分もありますが、インダクタンスについては機会があれば取り上げたいと思っています。
CR回路の具体例として、カットオフ周波数fc=100KHzのローパスフィルタを考えてみましょう。数10KHzまでの信号を扱う回路の入力部に、「手軽な」外来ノイズ対策として使おうとしているもので、初段はOPアンプの非反転増幅回路であるとしましょう。抵抗値と容量値の組み合わせは、
「160Ω+0.01μF」「1.6KΩ+1000pF」「16KΩ+100pF」「160KΩ+10pF」
あたりから他の要因を考慮して選択します。 現実的には、「1KΩ+1000pF」または「10KΩ+100pF」としてfc=160KHzで問題ないことを確認することになるのでしょうが、計算結果を感覚的に把握しやすいことを優先しました。
余談になりますが、最近は地球温暖化に関心が高まり、猫も杓子も「エコ」です。なかには「エゴ」の間違いでは?と思えるものもありますが・・・。
それはさておき、電子機器を取り巻く電磁的環境は温暖化の比ではなく、回路技術者の多くは、常にノイズ対策に悩まされているようです。多くの試作品がノイズ問題でボツになっていることは想像に難くありませんし、今まさに悪戦苦闘中の方も居られるに違いありません。
この際、プラス思考で「成長の糧」「メシの種」と考えることにしてはどうでしょう。ノイズ対策の経験は、確実に技術者の質を向上させますし、耐ノイズ性能はセールスポイントになります。
話を戻して、この回路の特性はどうなるでしょうか。ノイズ対策としての効果だけでなく、10KHzの信号に対してどうか、20KHz、50KHzでは・・・。感覚的にピンとくる技術者には、私の独断で「達人」の称号を贈ります。
カットオフ周波数では、振幅:-3dB(≒0.7、-30%)、位相遅れ:45度、減衰領域では-6dB/oct、これは常識ですが、任意の周波数に対して特性を計算することはあまりないでしょう。実際に計算してみると、
周波数
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振幅
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位相遅れ
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10KHz
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0.995( -0.5%)
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5.7度
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20KHz
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0.981( -1.9%)
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11.3度
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50KHz
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0.894(-10.6%)
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26.6度
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となります。もちろん、この数字が問題かどうかは、回路の目的によります。
私自身の経験ですが、「位相誤差±1度以下」という要求仕様の回路設計の依頼を受けたことがあります。この時には、目的信号周波数の60倍以上高いカットオフ周波数のノイズフィルタでなければならないことに驚いたものです。
ついでですから減衰領域についても計算すると、
周波数
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振幅
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位相遅れ
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200KHz
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0.447(-55.3%)
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63.4度
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500KHz
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0.196(-80.4%)
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78.7度
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1MHz
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0.100(-90.0%)
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84.3度
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となって、特に面白いわけでもありません。計算式は CR_Filter.pdfにまとめました。
ノイズ対策としてフィルタコンデンサの容量を10倍にしたところ、問題解決、一件落着と思ったら、目的の信号に影響して誤差が出てしまった・・・、ありそうな話ですね。