
今回のテーマは少し目先を変えて、まさに「よもやま話し」としてお読み下さい。
古くからある「物質とはなにか?」という疑問は、多くの先人の努力により、徐々に解明されてきました。その答えは、階層的なものであって、「分子、原子」に始まり、さらに「陽子、中性子、電子」、現代物理学の標準模型では、「クォーク、レプトンなどの素粒子」となっています。
あまり「浮世離れ」した話をしても仕方がありませんので、身近な物質や現象に限定すると、「陽子、中性子、電子」それと「光子」について考えればよいでしょうし、中性子は原子核内でのみ安定ですから、「原子核、電子、光子」でも十分です。ただし、量子論と特殊相対論は必要かもしれません・・・やっぱり、「浮世離れ」していますね。
ところで、「電子」という単語は、物理用語とは思えないほど多用されています。「光子」を「ミツコ」と読む人は多いでしょうが、「電子レンジ」という単語を見て奇異な感じを持つ人は少ないでしょう。あれは「電波レンジ」だ、などと野暮なことを口走るのは慎むようにしましょう。 話を戻して、電子は、電荷-1.60217653×10の-19乗クーロン、質量9.1093826×10の-31乗キログラム、スピン±1/2を持つフェルミ粒子です。
電子の質量は、陽子の1/1836ですから、通常の物体の重さを考える場合には、ほとんど誤差のようなものですが、電荷は陽子と同じ大きさです。このため、電気現象に関して、電荷の担い手として主役を演じているわけです。 1Vの電位差で電子を加速したときの運動エネルギーの大きさを1電子ボルトという単位で表しますが、このときの電子の速度はおよそ秒速600キロメートルにもなります。光速度の0.2%です。常温での熱運動に相当するエネルギーの場合で100Km/sほどですから、とにかく忙しく(?)動いているようです。
電子回路の設計で電子そのものを考えることは稀ですが、電荷量の計算は必要になることがあります。1pFのコンデンサ両端の電圧が1Vであれば、1pCの電荷が蓄積されているわけですが、電子の数は、6,250,000個です。意外に少ないと思うのですが、所詮は個人の感覚の問題です。
さて、1Aの電流は1秒間に1Cの電荷が移動していることになりますが、電子の数でいうと6.25E18個となります。この電流が銅線を流れているとき、電子の移動速度はけっこう遅い、と何かで見たことがあるのですが、どのくらいなのか計算してみることにしましょう。
金属内には金属イオンが規則的に並んでおり、多数の自由電子が存在している、というモデルが一般的です。銅の場合は、原子と同数の電子があると考えてよいようです。
単位体積あたりの銅原子の数は、N=アボガドロ定数×銅の密度/銅の原子量、で計算できます。1立方ミリメートルあたりでは8.45E19個となります。同数の自由電子があり、その数は、1Cの電荷相当の電子数6.25E18個の13.52倍です。つまり、1Aの電流が断面積1平方ミリメートルの銅線(φ1.13mm)を流れている時の電子の移動速度は、秒速13.52mm、ということになります。これほど遅いとなると、目で追うことができますね。交流の場合などは、同じ所で振動しているだけ、と考えて間違いはありません。
電子技術は広範に利用されていますし、光技術も急速に利用範囲が拡大しつつあります。しかし、当分のあいだは、「陽子技術」が一般化することはなさそうです。もしも、「陽子技術」と呼ぶべき分野の研究をされている方が居られましたら、ぜひともお話をお伺いしたいと思います。