今さら言うまでもないことですが、世の中には電子機器があふれています。テレビ、携帯電話、パソコンなどは、完全に日用品となっていますし、部外者には見えない部分にも電子装置が活躍しています。
これだけ多くの電子機器が使われるようになると、それらの動作不良の影響も大きく、電子技術者の悩みはつきません。いままさに、トラブル対策で解決方法を模索している方も居られるに違いありません。
電子機器について、「トラブルの8割は接続部分に原因がある」とよく言われます。8割というのは、統計的数字ではなく文学的表現だと思いますが、私自身の経験からも納得できる金言(?)です。付属品扱いを受けることの多い、接続ケーブルの怨念でしょうか、実際、接続ケーブルがらみのトラブルは多いものです。基板単体での動作には問題ないが、他の基板、あるいは、外部機器と接続すると、おかしくなる・・・、多くの方が経験されていることでしょう。
当然のことですが、接続ケーブルも物理的回路の一部ですから、電気的特性をもっています。回路図では、単なる「線」として書かれることがほとんどですが、LCRの分布定数回路と考えなければなりません。
今回、シミュレーションによる同軸ケーブルの近似、終端の実験を試みましたので、その結果を発表します。
1.分布定数の近似
同軸ケーブルの1mあたりの静電容量C=100pFとし、特性インピーダンスZ=50Ωとするため、インダクタンスL=250nHとした、LCローパスフィルタを出発点としました。L、Cを分割した高次のフィルタ(定Kフィルタ?)を作成し、抵抗分圧のみの回路と出力波形を比較して、どの程度の分割で近似できるかを探りました。
立ち上がり1nSの方形波を入力し、出力波形を見たところ、100分割で、ほぼ満足できる波形となることが判明しました。シミュレーションを実行してみてください。結構、おもしろいと思うのですが・・・。
出力波形は、5nS遅延した波形となるのですが、これは、L×Cの平方根(時間のディメンジョンです)と等しいようです。分布定数回路に詳しい方にとっては常識かもしれませんが、私自身は、遅延時間の数値については、いままで気にしたこともありませんでしたので、ちょっとした発見でした。
2.終端についての実験
上記の結果を踏まえて、1000分割した「同軸ケーブル1m」を作成してみました。やや大げさですが、計算量が増えたからといって文句をいうパソコンはありません。なお、抵抗成分は、0.1Ωとしました。
実験1、出力抵抗、および、終端抵抗の誤差は、どの程度の影響があるか?
±10%の誤差では、出力波形をみても判別不可能です。したがって、ほとんどの場合、50Ωの同軸ケーブルに対して、45~55Ωまでは、気にしないでよいようです。
±20%(40~60Ω)となると、判別可能な差がでますが、たとえば、デジタル信号なら全く問題ないでしょう。
実験2、シングルターミネーションの確認
出力抵抗、または、終端抵抗のどちらか一方のみを50Ωとしても効果があることを確認しました。出力に50Ωをいれておけば、10KΩで受けても波形に乱れは生じません。
実験3、マッチングを無視するとどんな波形となるか?
これは、ぜひとも、ご自身の目でご覧になってください。抵抗値を変えるだけで、奇妙な出力波形になります。
「同軸ケーブルを使うことがない」という方でも、フラットケーブルやツイストペアケーブルなどには、お世話になっているのではないでしょうか。どのようなケーブルであっても特性インピーダンスがあることを意識すると、技術者として「一皮むける」きっかけになると思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。