電源回路は地味ですが、電子機器に不可欠な部分であることは、言うまでもありません。昨今では、電源の方式として、スイッチングレギュレータが一般的となってきています。「電源は、電源屋さんが作ったモジュールを使う」だけで済むならばよいのですが、電池駆動の機器では、その性能を左右する部分であると言っても過言ではないでしょうし、いわゆる「オンボード電源」が必要な場合など、これまで、3端子レギュレータを使った程度の経験しかない技術者がDC/DCコンバータに取り組むことが要求されることもあるのではないでしょうか。
そこで、今回より数回に亘って、代表的な方式のDC/DCコンバータをテーマとして取り上げることとしました。しかしながら、私自身は、DC/DCについての経験が豊富なわけではありませんので、実用設計のノウハウを提示することはできません。あくまでも「シミュレーションによる基本動作についての実験報告」であることをご承知願います。
「DC/DCコンバータの基礎シリーズ」の第一章は、インダクタを一つ使う昇圧コンバータです。今回と次回にわけて掲載予定です。
1.昇圧比
昇圧コンバータで最も基本的な仕様として考えるのは、「出力電圧は入力電圧の何倍にしたいか?」でしょう。この昇圧比を決めているのは、スイッチングのON時間とOFF時間の比「だけ」です。スイッチング周波数、インダクタの値、出力電流値などは、まったく関係ありません。
昇圧比=(ON時間+OFF時間)/OFF時間=100/(100-D)
ここで、DはデューティーサイクルでON時間とスイッチング周期との比率(%)です。また、ダイオードの順方向電圧降下などは無視しての話です。
実際には、DC/DCコンバータICを使うことが多いと思いますが、昇圧比を制限する主たる要因は、最大デューティーサイクルであることは重要です。
2.インダクタ電流
インダクタに流れる電流は、スイッチングにより、三角波となりますが、その平均電流は、以下のようになります。
平均インダクタ電流=出力電流×昇圧比=入力電流
電力についての計算をすると、
出力電力=出力電圧×出力電流=(入力電圧×昇圧比)×出力電流=入力電圧×入力電流=入力電力
つまり、原理的には、電力変換効率は100%になります。これは、交流に対する理想トランスと同様に、直流に対して、インピーダンズ変換をしていると考えてよいでしょう。
インダクタ電流の三角波成分(リップル電流)は、インダクタ値に反比例、入力電圧に比例、デューティーサイクルに比例、スイッチング周波数に反比例します。リップル電流の大きさは、出力電流には関係しませんから、出力電流が小さい時に同じリップル電流比率にするためには、インダクタ値を大きくする必要があります。
直感的には、「昇圧比が高いとき、あるいは、出力電流が大きいときには、インダクタ値を大きくする」と思いがちですが、それは、まったくの勘違いであるわけです。
次回の続編では、以下の項目を掲載予定です。
3.過渡応答
4.高昇圧比の実現
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。