
現代社会において、エネルギー問題は最重要テーマのひとつであることに異論はないでしょう。ガソリン、灯油などの化石燃料、電力などのエネルギー不足によって、社会が機能不全となり、さらには、人々の生存の危機にまで至ることは、いまさら例に出すまでもなくご承知のことと思います。
当然の帰結として、省エネルギー技術に大いに関心が集まることになりますが、電気・電子技術関係においても、低消費電力化、電力効率の改善等が求められています。
電子機器において、低消費電力性能?とでも呼ぶべきものは、評価があいまいであり、なによりも「感覚的にピンとこない」性能ではないでしょうか。回路のあちらこちらで、丹念に消費電流を減らし、電力損失を軽減するために、すこし高価な部品を採用し、トータルでやっと100mW低電力化できた、・・・この結果をどのように考えるべきか、私には見当もつきません。しかし、あの手この手でやっと要求を満たすことができた、という事例もあります。
私自身が直接関わったものではありませんが、ある電池駆動のデータ収集装置です。聞くところによると、要求される動作時間を達成するため、IC類を低消費電力タイプとすることはもちろん、クロック周波数を必要十分な値まで低くするなど、可能な限り低消費電力化したものの、目標達成には、あと5mAほど減らさなければならない。回路の何処をみても、これ以上は無理かと思ったが、多数の10KΩのプルアップ抵抗があることに気付き、これらを100KΩに変更することで解決となった、とのことでした。私は、この話を聞いて少なからぬ感銘を覚えました。 プルアップ抵抗を高抵抗にすると、ノイズが気になるところですが、問題なかったそうです。これを逆に考えると、耐ノイズ技術が未熟であると、低消費電力化にも(僅かではありますが)差が出ることを示しています。
なにもせずに「わからん、むずかしい」と愚痴っても仕方がありませんので、今回、少し奇異な?試算をしてみました。電池駆動の電子回路の消費電力についての考察です。
回路の動作電流は100mAとします。負荷としての電子回路は、定電流特性を持つと考えても、それほど悪い近似ではないと思います。電池の電圧は6V、容量2000mAhとします。つまり、アルカリ乾電池4本を想定しています。問題は、電池の内部抵抗(出力抵抗)です。どの程度かは電池の種類にもよるでしょうが、1Ωとしましょう。(お詫び・・・この値が妥当かどうかの詮索は、ご容赦願います。計算しやすさのみを基準に設定しました)
6Vで100mAですから、600mWの消費電力であり、2000/100=20時間の動作が可能です。内部抵抗による電力損失は、0.1×0.1×1=0.01=10mWとなります。
ここで、やや唐突ですが、ランニングコストを考えてみます。アルカリ乾電池4本で100円とします。20時間の動作で100円ですから、5円/時間となります。もし、消費電流を20mA低減することができたとすると、4円/時間になり、100時間の使用で100円の差が出てきますから、原価が100円増加したとしても、100時間以上の寿命があるならば、「本質的」には評価されるべき成果です。ただし、原価上昇を価格に反映できないなどの「不条理」が存在することは認めざるを得ないわけですが、この非技術的問題には、立ち入るべきではないでしょう。
現実の電池では、電圧低下などがあり、また、電源にDC/DCを採用したものは、定電力負荷と考えるべきですから、 上記の議論は、簡略すぎるかもしれません。しかしながら、丹念に試算することで、低消費電力化とコスト上昇との兼ね合いについての具体的な指標が得られるのではないか、と思います。