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第20回:光速度

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第20回:光速度

最近、物理関係の話題といえば、ニュートリノの速度を測った実験でしょう。ニュースにもなっているので、一般の方でもご存じと思います。「アインシュタインの理論が間違っていた」などといった、まったくの「見当違い」について論評するつもりはありませんが、「光速を超える」結果は、かなり衝撃的ではあります。しかしながら、おそらく、専門の物理学者は、冷静に「どこで誤差が生じているのかな?」と考えているに違いないと思っています。

伝えられるところによると、実験は、発生させたニュートリノビームを730km離れたところで検出したところ、光の速度より60nS速く到達した、とのことです。誤差要因になりそうないくつかの点を検討したうえでの再実験でも、ほとんど同じ結果であったとの報告も、つい最近、発表されました。ただし、2回とも、時間計測にGPSを使っている点が共通しており、ここに問題がないか、さらなる検証が必要とのことです。GPSをどのように利用しているのか、ピンとこないのですが、時刻合わせの問題は、特殊相対論の「要」でもありますから、ちゃんとした「自前の時計」を用意していないことを知って絶句したのは、私だけでしょうか。あちらでも、「なんたら仕分け」で予算をけちったのでしょうか。

さて、時間計測となると、電子回路の得意分野の一つですので、この実験で使えそうな時間計測システムについて考えてみましょう。まず、光速度は秒速30万kmですから、730kmを移動する時間は、730/300000=0.002433・・・秒=2.433mSになります。1nSの分解能とすれば、1GHzのクロックを2433000以上カウントする必要がありますが、22ビットのカウンタでよいでしょう。

1GHz動作の22ビットカウンタくらいなら、それほど特殊でもありませんから、「ニュートリノ発射のタイミング信号でカウントを開始し、ニュートリノ検出信号でカウントを停止すればよい、・・・めでたし、めでたし」と思った方は、「おめでたい」人です。カウント開始信号が発生する場所とカウント停止信号が発生する場所とは、730km離れていますので、信号を伝送する必要があり、当然のことながら、遅延が発生します。この信号の遅延について把握していなければ、測定結果は何の意味も持ちません。

「そんなことは、当たり前だ。もちろん、遅延時間は前もって測っておくに決まっている」、・・・まだ「おめでたい」状態です。お気づきでしょうか、遅延時間を測るには、両地点での時刻合わせが必要になり、問題の本質そのものは解決していません。堂々めぐりの議論に陥っています。時間計測について、これ以上の検討はしませんが、やはり、それなりの「ややこしい」ことをしなければダメのようですね。GPSを利用したことにケチをつけたことをお詫びし、撤回したいと思います。

ところで、電子関係に携わる者にとっては、今回の60nSという時間は、それほど突飛な数値ではありません。20MHzのクロックで動作するマイコンなど普通に見かけますが、1クロック周期は50nSです。このクロックを伝送する場合には、遅延を考慮しなければなりません。高速回路を扱っておられる方にとっては常識でしょうが、ケーブル、基板の配線パターンでの信号の伝搬速度は真空中の光速度より遅くなり、この割合を短縮率と言いますが、例えば60%とすると、18cmあたり1nSの遅延時間になります。1.8mのケーブルでは、10nSとなり、オシロスコープで容易に観測できます。高速回路になじみのない方は、暇つぶしに試してみることをお勧めします。光速といっても、結構遅いものだと実感できます。

今回は、光速度についての話題を取り上げてみましたが、ここでの主役ともいえるニュートリノ観測装置といえば、日本には世界に誇る「スーパーカミオカンデ」があります。その成果は、すでにノーベル賞をもたらしていますが、実は、もうひとつ、ノーベル賞をとれるだけの成果を上げているのをご存じでしょうか。詳しいことはわかりませんが、「ニュートリノが質量をもっている証拠を観測した」そうです。ニュートリノの質量がゼロか、そうでないかは、物理の基本にかかわる素粒子理論に大きな影響を与える問題だそうですから、今回の「光速度を超えているかもしれない」というほどではないにしても、かなりインパクトのある発見であることは間違いありません。関係者の並々ならぬ努力に敬意を払いたいと思います。今回のテーマは少し目先を変えて、私自身が興味を持った話題を取り上げてみました。個人的な嗜好が入りすぎている様でありましたらお詫び申し上げます。

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