
数年前、ある実験装置用のアンプを設計・製作したことがありました。オペアンプを使った、±10V、10mA電流出力アンプで、やや高精度、やや高速、といった程度でしたので、とくに問題もなく、無事に納品できました。 その後、出力±30V、10mAのアンプが可能ならば、見積もりが欲しい旨の連絡があり、高出力アンプの検討をすることになったのですが、市販されている高出力のオペアンプは、特性的に採用できないことが判明したため、ディスクリートトランジスタでブースターアンプを作らざるを得ない、という結論になりました。
それ以前にも、オペアンプの出力を増大するため、エミッタフォロアを追加したことはありましたが、電圧ゲインを持ったブースターアンプは、トランジスタ1石(古い表現ですみません)の直流レベルのブースターアンプしか経験がありませんでしたので、シミュレーションによる検討に挑戦することにしました。
やや高速のブースターアンプとなると、オペアンプICの等価回路もどきになります。差動入力として、負帰還をかけてゲイン設定することになります。さらに、もとのオペアンプの帰還ループ内に入れるわけですから、位相補償が適切でなければ、容易に発振します。
高出力アンプの案件自体は消滅したため、机上検討のみで、実験・試作はしていないのですが、シミュレーションでのカットアンドトライは「満喫」しました。この回路は、アナログICの設計者から見れば、噴飯ものかもしれませんが、「楽しめる」または「笑える」あるいは「修行になる」と思います。
とくに初心者の方のために、この回路のシミュレーションで「楽しむ」ためのヒントを幾つか伝授しましょう。
1.まず、ブースターアンプのみで、動作を調べます。オペアンプの帰還ループに入れる前に、不安定さを取り除くわけです。
2.オフセットが出ますが気にすることはありません。オペアンプの帰還ループに入れば、オペアンプが頑張ってオフセットはなくなります。
3.出力エミッタフォロアの定電流負荷の電流値を減らして波形の変化を調べてください。回路を簡単にする代償として、どの程度の「無駄飯」が必要か、わかると思います。実際に作るとなると、放熱が大変そうです。馬力のある方は、AB級SEPP回路に変更してみてはどうでしょうか。
4.位相補償コンデンサ、差動入力トランジスタのエミッタ抵抗、動作電流、どれを変化させても、周波数特性が変化し、簡単に発振します。少しずつ変化させて、ステップ応答波形がどう変化していき、発振に至るか、ぜひ「鑑賞」してください。
5.オペアンプの帰還ループに入れて、位相補償コンデンサなどを変化させてみます。組み合わせの数が多いので、訳が分からなくなりますが、ご心配には及びません。フラフラになるころには、なんとなくコツが掴めてくるものです。このあたりが「修行」です。
最後に、この回路の動作についての理論的説明を質問することは、力試し「習うより慣れろ」の観点からご遠慮くださいますようお願い申し上げます。専門書などの参考書籍をご覧ください。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。