
電気・電子関係の技術者にとって、「ノイズ」という言葉は、特別な「響き」を持っているようです。背筋が寒くなる技術者が多いのではないでしょうか。心中お察し申し上げます。もし、嬉々としてノイズ対策に取り組む技術者がいるとすれば、「達人」か、さもなければ、怖いもの知らずの「超初心者」でしょう。
ノイズには、多種多様な発生源があり、ノイズそのものの電圧、電流、波形だけでなく、伝搬経路も様々であり、また、ノイズによる誤動作などの影響の現れ方も千差万別です。このため、系統だった「ノイズ対策論」は少なく、個別事例からの経験が重要視されているようです。
身近なノイズといえば、AC100Vラインからのノイズでしょう。オシロスコープのプローブをどこにも接続せず、机の上に「さりげなく」放置した状態で観測可能です。周囲の電磁気的環境によりますが、数10mV~数100mV程度の60Hz/50Hzの信号が表示されていることでしょう。その波形は、デコボコで、かなりのスパイクノイズが重畳していると思います。大抵のオシロスコープにはライン同期がありますので、観測は容易です。
プローブを移動したり、ACコードやパソコンから出ているコードなどを近づけたりして、波形の変化を観測してみてください。ラインに同期していない、怪しげなノイズも見えると思います。さらに、付近の電気器具や電子機器、パソコンなどをON/OFFしてみましょう。いくつかのノイズ源がわかります。最近のACアダプタや機器の電源には、スイッチング方式が多くなっていますので、ライン同期していないスパイクノイズがかなり観測されるのではないかと思います。
こんなことは意味がない、と思われるかもしれませんが、これらのノイズ波形を見慣れておくことは重要です。回路動作を調べる際に、よく似た波形が出てくることがあるものですが、プローブの接続が不完全で、プローブがACラインノイズを拾っているかもしれないと判断できるかどうかで、無駄に「うろたえる」ことを避けられますし、プローブの接続に問題がなく、回路信号に乗っているならば、ACラインからのノイズではないかと見当をつけることができますから、効率的に対策を進めることができます。
どこにも接続していないプローブです、電磁気物理的には、AC100Vラインに繋がっている、と考えるのが合理的です。そうでなければ、物理の保存則に反しますし、60Hz/50Hzに同期していることの説明ができません。静電容量による結合と思われますが、これを検証してみましょう。プローブのグランドリードに接続した導電体でプローブを静電シールドしてみてください。難しくはありません。アルミホイルがあれば簡単にできます。これで、ノイズは「消える」と思いますが、そうでない場合、あなたの机は、極めて過酷な電磁的環境にあることになります。余談ですが、アルミホイルはお勧めのアイテムです。回路が短絡しないように十分な注意が必要ですが、手軽にシールドの効果を確認できますし、なにより安価です。
簡略化したモデルで、AC100Vラインからのノイズを調べてみました。付属のシミュレーション回路を参照してください。これによると、数pF程度の静電結合であるようです。重畳しているスパイクノイズ発生源の一例として、ブリッジダイオードによる整流回路を接続してあります。この回路の各定数値を変えると、さまざまに波形が変化して、結構、楽しめます。
ACラインのノイズによる誤動作は日常茶飯事といってよいのではないかと思っていますが、現在、私が経験中(?)の事例を紹介します。自宅でのことですが、コタツのスイッチを切ると、動作中のADSLアダプタがエラーを起こして、接続が切断されます。自動的に接続設定をやり直して復旧するのですが、毎回ではないものの、再現性があります。ADSLアダプタに問題があるのか、パソコン側に原因があるのか、追求するつもりはありませんが、関係各位の奮闘努力による、耐ノイズ性能の向上を期待したいところです。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。