1. HOME
  2. お役立ち情報
  3. 電子回路技術情報よもやま塾
  4. 第26回:熱雑音

第26回:熱雑音

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
第26回:熱雑音

前回、ノイズの身近な例として、ACラインノイズを取り上げましたが、かつて、「ノイズ」といえば、主として回路内部で発生する内部雑音を指していました。現在ほど、電気・電子機器が普及していませんでしたから、回路動作に影響を及ぼすような外来ノイズの発生そのものが少なかったでしょうし、初期の回路素子の性能が十分でなかったため、「いかに低雑音の素子、回路を実現するか」は、電子技術者の重要なテーマでした。もちろん、この「内部雑音との戦い」が終わることはあり得ません。微弱信号を扱う分野、通信、オーディオ、アナログIC関係の分野で、あくなき戦いが続いていることと思います。

多くの先人のおかげで、内部雑音の素性については、かなりわかってきています。内部雑音には、熱雑音、ショット雑音、1/f雑音があります。(恥ずかしながら、これだけなのか、ほかにもあるのか、知りません。)このなかで、熱雑音が普遍的(?)と思われますので、これを取り上げてみます。

熱雑音は、発見者にちなんでジョンソンノイズ、ジョンソンナイキストノイズとも呼ばれます。かの有名なベル研のジョンソンさんとナイキストさんです。 あらゆる抵抗体で、雑音電圧=√4kTB、(単位はV/√H)が発生します。これは、基本的な物理現象ですから、「熱雑音キャンセラ」は実現不可能です。先ほど「普遍的」と表現したのは、この事情を意識してのことです。

熱雑音についての詳しい解説は、「どこにでも」ありますから、それを参照していただくとして、具体的な数値を見てみましょう。

常温で、1KΩの抵抗ならば、4nV/√Hzです。この「1K、4n」を覚えておけば、あとは簡単な暗算で熱雑音の大きさを見積もることができます。抵抗値、帯域の平方根に比例させるだけです。例えば、100KΩなら40nV/√Hz、さらに帯域1MHzなら40μVrmsの雑音電圧になります。雑音はランダムな波形ですから、実効値ではピンとこないでしょうが、Vpp=Vrms×6.6でpp値に換算できます。40μVrms×6.6=264μVppとなります。ちなみに、この値は、1Vフルスケール12ビットADCの1LSBと同等ですから、高分解能で1MHzほどの帯域があるADコンバータの回路では、信号経路に使う抵抗の値にも注意すべきことを示唆しています。 また、入手可能な低雑音オペアンプのなかには、4nV/√Hz以下の低雑音性能をもつものがあります。1KΩの抵抗を使うと、オペアンプICの低雑音特性を生かせないことになります。

10数年前のことですが、ある実験装置の疑似入力信号に雑音を重畳させるために、ノイズジェネレータを自作したことがありました。10MHz以上の帯域が必要でしたので、1KΩの抵抗で発生する熱雑音をローノイズ高速オペアンプ(AD829、1.7nV/√Hz)3段で1000倍に増幅しました。雑音を増幅するために低雑音オペアンプを使ったのですが、不条理のような、オペアンプ(の設計者)に申し訳ないような変な気がしました。なにせ、「アンプの出力はノイズだらけ」なわけですから!?

個人的な感想ですが、「雑音」という用語は、あまり好きではありません。雑音対策で苦労させられているからではありません。「雑草」などと同様に「雑」がつくことによって、「役に立たない」「邪魔になる」「価値がない」というニュアンスがあるわけですが、ここに人間の傲慢さが見えているような気がするからです。技術者の資質として最も大事なのは、「物事に対する最大限の謙虚さ」であると思っていますので、人間の都合を優先したような「雑」のつく用語には、違和感を覚えてしまいます。

以上、「雑」についての「雑感」でした。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

オリナスについて
もっと知りたい方はこちら

資料ダウンロードや製品・サービス内容に関するご質問やご不明な点などがありましたら、こちらよりお問い合わせください。

ご質問やお問い合わせはこちら

オリナスへのお問い合わせや、製品に関するご相談やご質問はこちらです。

お役立ち資料をダウンロード

オリナスの会社情報パンフレットや製品カタログのダウンロードはこちらです。

メルマガ登録