
因果関係という言葉があります。「原因があって結果がある」という、当たり前の意味ですが、ここで大事なことは、「原因と結果との間には、必ず時間的な遅れがある」ことです。これは、あらゆる物理現象に共通な、絶対的な事実です。電子回路においては、入力に変化があってから出力が変化するまでには、時間がかかることを意味しています。あまりにも当然すぎて、「今さら、何をつまらないことを・・・」とお叱りを受けそうですが、「遅延時間をどのくらい見込めばよいか」は、回路設計、および、システム設計をする上で、極めて重要な検討事項です。
電子回路における電圧変化の時間遅れを引き起こす元凶(?)は、ほとんどの場合、コンデンサです。コンデンサの両端の電圧が変化するためには、電流が流れて、蓄積電荷量が変化する必要がありますが、この充放電電流は無限大ではありませんから、蓄積電荷量が変化するためには、ゼロではない有限の時間がかかるわけです。
基本的な回路として、CR1次フィルタのステップ応答を調べてみましょう。第1回よもやま塾でCR1次フィルタを取り上げた際は、周波数領域での話でしたが、ここでは、時間領域で考えることになります。
よく知られているように、時定数τ=CRによってステップ応答が決まり、厳密に計算できます。最終的には、入力の変化と同じ値に到達しますが、経過時間ごとの到達出力、最終値からの誤差を以下に示します。
時間 到達出力 誤差 相当分解能
1τ 63.212056% -36.78794%
2τ 86.466472% -13.53358%
3τ 95.021293% -4.978707%
4τ 98.168436% -1.831564%
5τ 99.326205% -0.673795%
6τ 99.752125% -0.247875% 8ビット(1LSB=0.390625%)
7τ 99.908812% -0.091188% 10ビット(1LSB=0.097656%)
8τ 99.966454% -0.033546%
9τ 99.987659% -0.012341% 12ビット(1LSB=0.024414%)
10τ 99.995460% -0.004540% 14ビット(1LSB=0.006104%)
11τ 99.998330% -0.001670%
12τ 99.999386% -0.000614% 16ビット(1LSB=0.001526%)
この計算結果を見ると、高分解能のADコンバータ、DAコンバータを使う際には、セトリングタイムについて注意する必要がありそうです。高速のサンプリング回路、ピークホールド回路などでは、さらに要注意でしょう。私など「時定数の5倍でほぼ安心、10倍あれば無視できる」などと、漠然とした感覚を持っていましたが、あらためて計算してみて、10倍では14ビットまでであったことに、軽いショックを受けています。これからは「5倍で1%、12倍で16ビット」と覚えておこうと思っています。
昨今では、1チップで電源と入出力を接続するだけで動作する、手軽なADC、DACが入手可能ですし、マイコンに内蔵されたADC、DACもありますから、不慣れな初心者でも扱う機会が多いのではないかと思われます。もし、「動作はしているが、誤差がある」場合には、ノイズレベルとともにセトリングタイムも確認してみることが大事です。