オペアンプICのデータシートには、多くの特性項目についての仕様が記載されていますが、その特性の一つにスルーレートがあります。ADコンバータ、DAコンバータのバッファアンプとしてオペアンプICを使うことは一般的ですが、前回、取り上げたセトリングタイムに直接関係する特性です。
スルーレートは、オペアンプICの出力の高速性を示す特性項目で、一般的にSR(Slew Rateの略)で表され、単位はV/μSです。つまり、1μSで出力電圧が何Vまで変化できるか、を示している数値です。例えば、10 V/μSのスルーレートのオペアンプICであれば、1μSで10Vまでの出力変化に対応でき、1Vの出力変化ならば、100nS必要となります。出力電圧の変化が有限の時間となるのは、前回でも解説したように、コンデンサ(IC内部のコンデンサ)と有限な充放電電流です。このIC内部の充放電電流は、定電流であることが多いので、電圧変化は直線的になります。スルーレートについての一般的な考え方を示すため、シミュレーション回路を用意しました。以下にこれらの回路について説明します。なお、オペアンプICの型番、定数などの細部にはこだわらないでください。単にスルーレートの異なるオペアンプICを選んだだけです。
1.スルーレート_パルス.asc
Out_A1とOut_B1は、オペアンプICのスルーレートの違いをそのまま見ることができます。UAは約4.3 V/μS、UBは約80V/μSのスルーレートです。
Out_A1とOut_A2、Out_B1とOut_B2を比較してください。反転アンプと非反転アンプでスルーレートに変化がないことがわかります。
Out_A1とOut_A3、Out_B1とOut_B3を比較してください。ゲイン1とゲイン10でスルーレートに変化がないことを確認できます。Out_A2とOut_A4、Out_B2とOut_B4を見れば、ゲイン-1とゲイン-10でも同様であることがわかります。
2.スルーレート_正弦波.asc
ゲイン1の回路で振幅10Vpの正弦波、50KHz、100 KHz、200 KHz、2MHzを入力したときの、出力波形を観測できます。UA、UBともに小信号帯域は、10 MHz以上なのですが、スルーレートによる制限で、小信号帯域よりかなり低周波で歪んでしまうことがわかります。
CRフィルタなどの帯域制限による出力信号の減衰の場合には、歪は発生しませんが、オペアンプのスルーレートによる制限では、歪が発生し、相似性が失われる結果となります。
出力レベルが小さくなれば、より高い周波数まで扱えます。入力電圧源の振幅、周波数を変えることで容易に確認できますので、試してみてください。
なお、スルーレートSR、振幅Vpと扱える周波数fには、f=SR/2πVpの関係があります。
実績のあるオペアンプ回路を別の部分に応用する、または、若干の変更を加えて仕様変更する、といったことは、よくあるのではないでしょうか。その応用、変更が、出力レベルが大きくなる、あるいは、より高い周波数の信号を扱う、といった変更になる場合、スルーレートによる制限を見落としがちですから、注意しなければなりません。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。