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第33回:フォトダイオードプリアンプ-序章-

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第33回:フォトダイオードプリアンプ-序章-

光を応用した電子機器・装置は、広範囲の分野で利用されています。最も身近な例は、家電製品などに普通に使われている、赤外リモコンでしょうし、「たいそうな」例では、レーザーレーダーなどでしょうか。

受光素子としては、PD(フォトダイオード)が一般的で、よく使われているようです。様々な特性、形状の製品が供給されていますし、オペアンプICの性能向上のお蔭で、比較的容易に、受光回路を構成することができます。

しかしながら、「ゆるい」要求の回路ならばともかく、感度、応答速度などの特性を少し「欲張る」と、大きな困難に直面することになります。動作原理の理解程度で、実用になるものを作れるような「やわな」回路ではありません。かなり「楽しめる」あるいは「悶絶させられる」回路のひとつです。

さて、受光素子であるPDの出力は、電流です。PDは電流源と考えなければなりません。電流が入力ですから、一般的な電圧出力にするためには、電流電圧変換回路が必要になります。表現は大げさですが、要するに「抵抗成分」が必要になります。単純に抵抗一本で済ませることもできます。事実、高速性能を最優先したような場合などに50Ωの抵抗のみで電流電圧変換し、同軸ケーブルで電圧増幅アンプに接続する構成例もあります。

実用的な受光回路としては、抵抗のみでは要求を満たせないことがほとんどでしょう。例えば、微弱光を「そこそこ」高速の1MHzで検出しようとする場合、例えば、PDから0.1μAの光電流出力が見込めるとして、10MΩの抵抗で1Vの出力を得られる、と期待して、抵抗一本で済まそうとしても「そうは問屋が卸さない」ことになります。PDには端子間容量が存在しますが、応答は、この容量と10MΩで決まってきますので、端子間容量が10pFもあれば1.6KHzまでとなってしまい、「まるでお話にならない」でしょう。

【補足】厳密には、PDの応答は、端子間容量と負荷抵抗だけで決まる値とは異なるようです。PD内部の物理的特性が「からんで」いるらしいのですが、概略を見積もるための議論では、大きな違いはないと考えてよいと思います。

応答速度を改善するためには、PDの端子間容量(実際には、実装に伴う寄生容量も含む)を考慮して、PDから見た負荷抵抗は小さくする(理想的にはゼロにする)必要があるわけです。

「それでは」とばかりに、上記の例で「抵抗を1KΩとし、後段のアンプで10000倍すればよい。オペアンプの4段増幅くらいで楽勝だろう。」という作戦を立てるかもしれません。PDの端子間容量10pFに起因する応答の制限は、16MHzとなりますから、後段のアンプの応答が1MHzあればよいわけです。数10MHzの帯域を持つオペアンプICでOKとなりそうです、・・・応答に関しては・・・。

微弱信号の検出・増幅では、感度、すなわち、S/N比が重要な問題となります。信号が「ノイズに埋もれて」いては、いくら増幅しても意味はありません。そこで、上記の例について、ノイズを見積もってみましょう。

1KΩの抵抗は、4nVrms/√Hzの熱雑音を発生します。1MHzの帯域として4μVrmsです。これを10000倍するのですから、40mVrmsのノイズが出力に現れます。実効値ではピンとこないでしょうから、6.6倍してpp値に換算すると264mVppになります。0.1μAの光電流を想定し、信号出力1Vでしたから、S/N比は、1/0.264=3.7878・・となります。ノイズの4倍弱の信号、あるいは、信号の1/4のノイズレベルです。このS/N比でよいならば、「めでたし、めでたし」ですが・・・。アンプ自身のノイズもこれに加わりますが、初段のオペアンプに4nV/√Hzの半分以下のローノイズ、かつ、高速オペアンプを使えば同程度の結果とすることができます。高速ローノイズオペアンプは、やや特殊とはいえ、入手可能です。

ところで、10MΩ一本で済ます最初の作戦では、応答はともかく、ノイズはどうなると思いますか?「抵抗値が大きければノイズも大きいに決まっている。」と即断しがちですが、肝心なのはS/N比ですから、きちんと計算してみます。

10MΩは、1KΩの10000倍ですから、熱雑音は平方根に比例するので、√10000=100倍です。同じ1MHzの帯域で考えると、1KΩの場合の4μVrmsの100倍、400μVrmsです。確かに100倍も大きなノイズですが、1KΩを使った作戦とは異なり、10000倍の増幅はしませんから、信号出力1Vに対してノイズは400μVrmsそのままです。pp値に換算してS/N比を計算すると1/(400μ×6.6)=378.78・・となり、1KΩ作戦より100倍よくなっています。

以上をまとめると、「応答を速くするには、抵抗を小さくする。S/N比を大きくする(感度を上げる)には、抵抗を大きくする。」となり、悶絶が始まりますが、ここでオペアンプを使ったIV変換回路、トランスインピーダンスアンプと呼ばれる回路の登場となります。

続編では、トランスインピーダンスアンプについて解説する予定です。内容が豊富すぎる(?)ため、数回にわたるかもしれません。

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