
前回の解説で示したように、フォトダイオードの出力電流を電圧に変換する抵抗は、感度(S/N比)を上げるためには大きく、応答を速くするためには小さくする必要があります。この相反する要求を満たすために、負帰還回路技術の出番となります。
反転アンプの出力と入力を抵抗で接続する、単純な負帰還回路とするだけで、電流電圧変換アンプになります。
以下に簡単な動作原理の計算を示しておきます。
反転アンプのゲイン=-A、帰還抵抗=Rf、入力電流=Iin、アンプの入力電圧=Vin、出力電圧=Voutとします。アンプの入力インピーダンスは十分に大きく、アンプの入力端子に流れ 込む電流は無視できるとします。
この近似では、入力電流はすべて帰還抵抗に流れますから、帰還抵抗Rfの両端の電圧=Iin×Rfです。
アンプの入出力電圧の関係は、Vout=-A×Vinであり、また、Rf両端の電圧=Vin-Vout=Iin×Rfですから、 簡単な計算をすることで、次の結果を得ることができます。
Vout=-(A/(1+A))×Iin×Rf、Aが大きい(>10)ならば、Vout≒-Iin×Rf(誤差は1/A程度)
回路の入力側から見た、等価入力抵抗をRinとすると、
Rin=Vin/Iin=Rf/(1+A)、Aが大きい(>10)ならば、Rin≒Rf/A(誤差は1/A程度)
この結果を見ると、負帰還を使ったフォトダイオードプリアンプでは、Rfを大きな値としても、PDから見た負荷抵抗値がRf/Aに小さくなり、応答が改善されるわけです。
付属のシミュレーションファイルには、3種類のフォトダイオードプリアンプ回路を収めてあり、フォトダイオードは、電流源と100GΩ+100pFでシミュレートしています。
1.抵抗負荷(1MΩ、100KΩ、10KΩ)+電圧増幅アンプ
2.反転アンプ(G=-10、-100)によるIV変換回路
3.オペアンプを(そのまま)反転アンプとして使ったIV変換回路(Cf=なし、1pF、2.2pF)
パルス応答の様子を比較してください。負帰還の効用を確認できます。
周波数特性グラフに慣れている方は、AC解析でも比較してみてください。
オペアンプICは、反転入力があり、入力インピーダンスが高く、ゲインも大きいので、IV変換アンプとして(通常は)十分な特性を持っていると考えてよいでしょうが、もちろん、限界はあります。
シミュレーションファイルのオペアンプIV変換回路で、帰還抵抗Rfのみでは、発振しています。
オペアンプの反転入力には、PDの端子間容量(+オペアンプ自身の入力容量)が接続されているため、周波数が高い領域で位相遅れが生じて、不安定になるためです。
この対策として、Rfに並列にCfを追加して位相補償するのですが、安定化の代償として、応答は遅くなってしまいます。オペアンプICをより高速なものにすれば、それなりに改善はされますが、限界があることは変わりません。
PDの端子間容量は、あくまでも、応答を制限する要素として、存在を誇示しているかのようです。「負帰還か何か知りませんが、結局、応答を決めているのは私ですよ・・・」などと、嘲笑っているのでしょうか。
応答を改善するために有効なIV変換回路ですが、S/N比はどうなるのでしょうか。変換抵抗Rfから発生するノイズだけでなく、オペアンプが発生するノイズも考慮しなければなりません。このノイズ計算は、かなり煩雑ですので、次回以降にします。少し、予告しておきます。「またしても、PDの端子間容量が・・・」、乞うご期待。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。