
前回、電流出力アンプの出力抵抗は、Ro = Rs/(1-A) となることを示しました。Roは出力抵抗値、Rsは電流検出抵抗値、Aは負荷からの正帰還ゲインです。
この式を見ると、A=1ならば、出力抵抗Roは無限大となりますが、ゲイン誤差があると、出力抵抗は、有限の値となります。A<1ならば、正の抵抗値ですが、 A>1の場合には、負の抵抗値となってしまいます。多くの方は、負性抵抗に 馴染みがないと思いますので、A>1の領域になると、突然、動作特性が「メチャクチャ」になってしまうのではないか、と心配されるかもしれません。あるいは、「そもそも、正帰還のゲインが1を越えると、発振、飽和など、動作不安定になってしまう」という指摘があるかもしれません。
しかし、「電流源と見做してよい範囲」であれば、上記の心配は無用です。「電流源と見做してよい範囲」とは、負荷抵抗値に比べて「十分に大きな」出力抵抗値(プラスでもマイナスでもよい)となる範囲、です。「十分に大きい」か、どうかは、出力電流の許容される誤差により決まってきますが、例えば、1%の誤差を要求されるなら、負荷抵抗値の100倍以上、10%くらいまで許容されるなら10倍以上、といった具合です。シミュレーションファイル「電流出力アンプ_正帰還ゲイン可変_2.asc」には、ゲインA=0.99、0.9、1.01、1.1として、負荷抵抗値(100Ω)の±100倍、±10倍の出力抵抗値の回路を収めてあります。出力抵抗値がマイナスとなっても、出力電流が大きくなる方向の誤差となるだけで、動作特性が「メチャクチャ」にはなりません。ぜひ、確認してください。
上記の「そもそも、正帰還のゲインが1を越えると、発振、飽和など、動作不安定になってしまう」という指摘には、「はやとちり」があります。正帰還ゲインAは、負荷からオペアンプの出力までのゲインです。正帰還の「ループゲイン」は、オペアンプの出力電圧が電流検出抵抗と負荷抵抗で分圧されることを考慮しなければなりませんから、通常であれば、1以下となります。ただし、負荷抵抗値が大きくなると、ループゲインが1を越える恐れがあります。シミュレーションファイル「電流出力アンプ_正帰還ゲイン誤差_負荷変動.asc」には、負荷抵抗値が大きくなった時の動作特性を調べる回路を示していますので、確かめてみてください。
これまでの解説では、負荷からの正帰還にバッファを介して、正帰還ゲインが電流検出抵抗と負荷抵抗の影響を受けないようにした回路を紹介してきましたが、実用回路としては、バッファを省略しても十分な特性を持たせることが可能です。差動アンプの帰還抵抗値が電流検出抵抗と負荷抵抗の並列合成抵抗値よりも十分に大きければ、正帰還ゲインの誤差も許容範囲に収まるからです。例えば、100Ωは10KΩの1%に過ぎませんから、10KΩの抵抗に1%品を使った場合など、バッファを使う「有難み」は少ないでしょう。シミュレーションファイル「電流出力アンプ_バッファ省略.asc」には、いくつかの定数の組み合わせ例を収めていますので、誤差の程度を確認してみてください。
電流出力アンプとしては、出力抵抗を無限大に近づけることが肝要ですが、この回路の応用として、特定の出力抵抗を持ったアンプとすることも可能です。電流検出抵抗の抵抗値と正帰還ゲインを(1未満の)適切な値に設定することで実現できるのですが、具体例は割愛します。興味のある方、必要に迫られている方は、研究してみてください。
4回にわたって、電流出力アンプについての解説をしてきました。まだまだ「語り尽くせていない」のですが、それらについては、機会を改めて取り上げることにしたいと思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。