
先日、新入社員向けに、「電子部品と半導体素子の基礎」をテーマとした研修を実施し、そのなかでMOSFETを使ってDCモーターを駆動するデモンストレーションを行いました。その準備としての動作確認時の顛末を、自省の念を込めて「暴露」することにします。
手持ちの部品箱(ガラクタ箱)にあったDCモーターを使うことにしました。これは古い充電式シェーバーを分解したもので、ニッカド電池一本を電源として使われていたものです。アルカリ乾電池2本を接続して回転することを確認しました。定常時の電流は200mAほどでした。同じようにガラクタ箱からTO220パッケージのMOSFETを拾い上げました。型番は、2SKxxx(3ケタの型番)で、かなり古いものですが、インターネットで検索したところ、幸いにもデータシートを見つけることができました。それによると、ドレイン耐圧150V、ドレイン電流5A、ゲート閾値3.5Vmax、ですので、問題ないと思いました。
ゲート駆動は6V(乾電池4本)とすることにして、さっそく動作確認に取り掛かりました。バラック配線とクリップ付リード線で回路を組み、ゲートに6Vを印加すると、当然のことながら、モーターは回転し始めましたので、MOSFETは「生きて」いるようでした。「これで必要な部品は確保できた」と安心して、ゲート駆動電池の接続を外したのですが、ここで「愕然」としました。なんと、モーターは何事もなかったかのように回転し続けていました。
意表を突かれて慌てたときには、冷静な判断力を失うもので、MOSFETを壊してしまったと思いました。モーターと電池の接続を外して回転を止め、再度、ドレインに接続したところ、モーターは回転しません。てっきり、ドレイン・ソース間はショート状態で故障していると思い込んでいましたから、再度、意表を突かれました。そこで、ゲートに駆動電圧を印加すると、モーターは回転を始め、ゲート駆動電池を外しても回転は止まりませんでした。ここに至って、冷静さを取り戻し、この現象の原因に思い至りましたので、そのまま、モーターを回転させ続けたところ、5秒ほどしてモーターは止まりました。さらに、追加の実験(イタズラ)をしました。ゲートと電池の配線をそれぞれ手でつまんでみたところ、モーターは回転し始めました。
上記の現象の原因は、ゲートに蓄積された電荷が放電されずに残っていたためです。あらためて、MOSFETのゲート・ソース間が高インピーダンスであることを実感できましたが、秒単位でOFF遅延が発生するとは思ってもみませんでした。「百聞は一見(実験)にしかず」です。
ゲート・ソース間に100KΩの抵抗を追加して、デモ回路は完成しました。普通にMOSFETの回路を設計するときは、ほとんど条件反射的にゲート抵抗をいれていましたから、いままで、OFF遅延を意識したことはありませんでしたが、「素人相手のデモだから動けばよい」とばかりに、舐めてかかっていたことを反省させられました。
付属のシミュレーションファイル「MOSFET動作実験.asc」には、今回の現象を再現する回路を収めてあります。かなり初歩的な技術レベルとはいえ、雑談の話題くらいにはなると思います。また、「MOSFET動作実験_2.asc」には、うっかりやってしまいそうな失敗回路例を示してみました。「転ばぬ先の杖」となれば幸いです。
塾頭からのお願い
皆さんの失敗談を「こっそり」お知らせいただけないでしょうか。「失敗は宝の山」ですから、失敗談を紹介することは有意義であると思います。もちろん、秘密厳守はお約束します。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。