
受光素子として一般的なものと言えば、PD(フォトダイオード)です。より高速なPINタイプPDもあり、これらは、種々の光応用機器・装置内で大活躍しています。やや特殊ですが、APD(アバランシェフォトダイオード)という受光素子があります。ご存じの方もいらっしゃると思いますが、素子内部で光電流増倍作用が働くため、PDに比べて数十~100倍ほど高感度です。
APDを動作させるには、逆バイアス電圧を印加する必要があります。高速化を目的として、PD、または、PINPDに逆バイアス電圧を印加する使い方がありますが、印加電圧は数V~10V程度です。一方、APDの逆バイアス電圧は、個別製品の特性によりますが、100V~200Vといった高電圧が要求されます。APDの光電流増倍率は、逆バイアス電圧による変化が大きく、また、温度依存性もかなり大きいため、温度補償付の可変高電圧出力回路が必要になります。ただし、出力電流容量は、0.1mAほどで充分です。
さて、可変高電圧出力回路というのは、DCアンプそのものです。例えば、ゲイン100倍のDCアンプに制御信号として1Vを入力すれば、出力は100Vになります。オペアンプ単体の出力電圧は数V程度ですが、ディスクリートトランジスタで100倍のアンプを作り、オペアンプ出力に縦続すれば出力100VのDCアンプを実現できます。
シミュレーションファイル「トランジスタ電圧増幅回路.asc」は、電圧増幅度100倍のトランジスタアンプ回路を収めています。基本回路そのものですが、オペアンプの負帰還ループ内に挿入されるため、これで充分な働きをしてくれます。電圧増幅度=ΔVout/ΔVin≒-RC/REで、反転増幅であることに注意してください。また、アンプの出力抵抗は、RC=100KΩですが、要求される出力電流は0.1mAですので、10Vほどの損失で済みます。出力にエミッタフォロアを追加すれば出力電流を大きくすることができますが、回路は省略します。トランジスタは、コレクタ耐圧300V以上とすべきでしょう。シミュレーション回路のトランジスタは、コレクタ耐圧150Vですが、これは、ほかにマクロモデルがなかったからです。
シミュレーションファイル「可変高電圧出力回路.asc」は、オペアンプ+トランジスタで構成した高電圧出力アンプ回路を収めています。トランジスタアンプが反転増幅であるため、回路全体の入力極性が、オペアンプ単体の入力極性と逆になることに注意してください。オペアンプの非反転入力に帰還が掛かっていますが、これで回路全体としては負帰還となっており、ゲイン101倍の非反転アンプ回路を構成しています。負帰還とオペアンプのオープンループゲインの働きで、トランジスタアンプ自体の入力オフセット(ベースエミッタ間電圧)、および、大きな出力抵抗=100KΩは、帰還ループの外側には現れていません。なお、入力のR3、および、オペアンプ出力とオペアンプ反転入力間のC1は、発振防止のためです。これらの値は、実際に使われるオペアンプ、トランジスタ、回路定数によって変わってきますので、最終的には、実機での確認が必要です。
シミュレーションファイル「APD出力模擬動作.asc」は、電流源をAPDの簡易等価回路として、APD接続時のバイアス回路の動作を調べるためのものです。条件を変えたりして「遊んで」ください。あまり面白くないかもしれませんが、バイアスは一定であることが肝要ですので、あしからず・・・。
かつて、APDを採用した受光装置の試作を依頼されたことがありましたが、その時に設計したAPDバイアス回路を(若干の変更を加えて)紹介してみました。オペアンプ単体では扱えない「高電圧」を制御する場合、考え方の参考になれば幸いです。 今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。