
信号処理における時間領域での分解能とノイズの関係性
第77、78回で分解能とノイズの関係について考察しましたが、そこでの「分解能」とは、正確には「電圧分解能」を意味していました。
①時間分解能とは
信号処理において、電圧値(信号強度)が主要な対象(取り出すべき情報)であることが多いと思われますが、ある基準電圧値に到達した時刻、あるいは、信号が検出された時刻といった、時間領域でのタイミングが重要な情報である場合もあります。レーダーの原理を考えれば、分かりやすいでしょう。
シミュレーション
そこで、今回は、時間分解能とノイズについて考えてみます。まず、シミュレーションファイル「時間分解能とノイズ_デモ_1.asc」を参照してください。
この中に収められている回路は、-4Vから+4Vまで変化する信号をコンパレータに入力し、0Vを「横切った」時刻を検出しています。入力信号には、ノイズの代わりに正弦波を重畳しています。
ノイズが重畳した信号の場合には、0V付近のある期間で、コンパレータの出力が不定状態となっています。さらに、ノイズレベルが大きいほど不定状態の時間が長いことを確認してください。この不定状態の時間が「時間分解能」となります。コンパレータを高速なものに替えるなどの「改善」は無効であることは、理解していただけるでしょう。
②時間分解能の計算例
この回路構成を例として、時間分解能の定量的な考察をしてみましょう。ノイズレベルをVn(Vpp)とします。入力信号Vinの値が、-0.5Vn<Vin<+0.5Vnの範囲にある期間は、コンパレータの出力は不定となります。入力信号の電圧増加率(スルーレート)を一定値VSR(V/S)とすると、不定状態にある時間ΔT(S)は、
ΔT=Vn/VSR
となります。
シミュレーション回路の例で計算すると、入力信号のスルーレートは、VSR=8V/2S=4(V/S)です。ノイズレベルが1Vppの場合、時間分解能は、ΔT=1/4=0.25(S)となります。この計算結果は、シミュレーションのコンパレータ出力(Out_Noise1V)で確認できます。
シミュレーション
シミュレーションファイル「時間分解能とノイズ_デモ_2.asc」には、ノイズレベルは一定値(1Vpp)とし、入力信号のスルーレートを4、8、16、32(V/S)と変化させた例を収めています。スルーレートに反比例して時間分解能が変わる様子が観察できます。
③正弦波を入力信号としたゼロクロス検出回路を用いての分解能の検証と観察
実際的な例として、正弦波を入力信号とした、ゼロクロス検出回路の場合について考えてみます。時間分解能の計算式は、ΔT=Vn/VSRです。正弦波の0V付近でのVSRは、以下のようになります。
VSR=ω×Vp=2πf×Vp ただし、f:周波数、Vp:振幅(ピーク値)
したがって、正弦波のゼロクロス検出での時間分解能は、
ΔT=Vn/(2πf×Vp)
となります。
シミュレーション
正弦波ゼロクロス検出における時間分解能を検証、観察するために、3種類のシミュレーションファイルを用意しました。それぞれ、以下の内容となっています。一度、検証してみてください。
1.「正弦波ゼロクロス_デモ_1.asc」、ノイズレベルを変えたもの信号周波数:2Hz、信号振幅:4V、ノイズレベル:0Vpp、0.5Vpp、1Vpp、2Vpp
2.「正弦波ゼロクロス_デモ_2.asc」、信号振幅を変えたもの信号周波数:2Hz、信号振幅:1V、2V、3V、4V、ノイズレベル:1Vpp
3.「正弦波ゼロクロス_デモ_3.asc」、信号周波数を変えたもの信号周波数:2Hz、5Hz、8Hz、16Hz、信号振幅:4V、ノイズレベル:1Vpp
尚、今回で「分解能とノイズの関係性」に関するテーマは終了となります。 今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。