
電気・電子回路におけるトランジスタ回路の基礎 -エミッタ接地回路(3)-
①はじめに
前回、エミッタ接地の原理的回路について、その動作を調べました。その結果、入力電圧によって、3種類の状態があることがお判りいただけたと思います。要約すると、以下のようになります。
Vin<VBEの領域(遮断領域)では、
Ic=0、Vout=Vps
Vin>VBE、かつ、Ic<IcMAX(Vout>0)の活性領域(リニア領域)では、
ΔIcはΔVin に比例、ΔVout はΔVin に反比例
電圧信号ゲインG=ΔVout/ΔVin=-hFE×(Rc/Rb)
Ib×hFE≧IcMAX、即ち、Vin>{(Vps/Rc)/hFE}×Rb+VBEの飽和領域では、
Ic=IcMAX 、Vout=0
②エミッタ接地回路にベース・エミッタ間抵抗を追加した場合における入出力特性の関係式
シミュレーション
シミュレーションファイル「エミッタ接地_Rbe追加.asc」を参照してください。前回までと同じ原理的回路と、ベース・エミッタ間抵抗Rbeを追加した回路を収めています。Rbeは、ベース抵抗Rbと同じ10KΩと、半分の5KΩの2例です。入力電圧は、5Vスイッチングを想定して、5msで5V、直線的に変化させていますので、直流特性の違いを調べることができます。
前回と同様に、Rbeを追加した回路の入出力の関係式を導くことができるのですが、前回の結果を踏まえて、定性的に動作を考えてみましょう。
RbとRbeは、分圧回路を形成しており、ベース・エミッタ間には、Vinの分圧された電圧が印可されます。この分圧電圧がVBE以下であれば、トランジスタはオフです。
Vin×{Rbe/(Rb+Rbe)}<VBE
Vin<VBE×{(Rb+Rbe)/Rbe}
となりますから、トランジスタがオフからオンに遷移し始める閾値は、VBEの{(Rb+Rbe)/Rbe}倍となります。原理的回路では、閾値はVBEで固定ですが、適切な値のRbeを追加することで、望ましい閾値とすることが可能になります。
活性領域での特性について考えてみましょう。「入力電圧が分圧されて小さくなるので、ΔVinに対するΔIc、ΔVoutの変化率は小さくなる」と考えられそうですが、実は、Rbeを追加しても、ΔVinに対する変化率には影響しません。活性領域では、Rbeの両端の電圧は、VBEで一定、Rbeを流れる電流も一定ですから、Vinの増大による、Rbを流れる電流の増加分は、すべて、Ibの増加分となります。要約すると、活性領域のゲインは、Rbのみで決まります。
以上の考察から、「Rbeを追加した回路の入出力特性は、原理的回路の特性をVin軸方向に平行移動した特性になる」と結論できます。シミュレーションで確認してみてください。
今回のまとめ
ベース・エミッタ間抵抗には、他にも「メリット」があります。回路の入力端が開放状態になるような状況であっても、ベース端子が「浮かない」ことです。これは、予期しないノイズによる誤動作の抑制になります。また、オフディレイの緩和にも多少は寄与します。これらの「メリット」についての解説は、「基礎」の範囲をこえますので、別の機会と致します。
次回は、コレクタ接地回路(エミッタフォロア)を取り上げます。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。