
電気・電子回路におけるオペアンプ応用回路 -移相回路からの展開(1)-
①はじめに
前回、移相回路の動作原理を説明しました。要点をまとめると以下のようになります。1つのRC回路で入力のローパス出力をつくり、これを入力から減算してハイパス出力を得ます。次に、ローパス出力からハイパス出力を減算すると、振幅は周波数によらず一定で、位相のみが変化する特性になります。これらの演算を1つのオペアンプ回路で巧妙に実現しています。(ローパスとハイパスを入れ替えても同様です。)
さて、今回は、移相回路の考え方を参考にして、いくつかの展開、応用を試みます。
②移相回路からの展開
ローパス、ハイパス同時出力
1つのRCローパス(またはハイパス)出力と入力の演算によって、ハイパス(またはローパス)出力が得られることがわかりましたから、この原理をそのまま使うことによって、ローパス出力とハイパス出力を同時に得る回路が構成できます。
シミュレーション
シミュレーションファイル「LP_HP_同時出力.asc」を参照してください。原理どおりの演算をオペアンプ回路で実現しています。
この回路の利点としては、ローパス、ハイパスの遮断周波数を揃えることが比較的容易であることでしょう。演算精度は抵抗値の精度で決まりますが、高精度ペア抵抗などが入手可能です。一方、別々のRC回路を使う場合、コンデンサの容量値を揃えることは困難でしょう。
移相回路のゲイン変更
シミュレーション
シミュレーションファイル「移相回路_ゲイン変更.asc」を参照してください。オペアンプ部のゲイン設定を変えるとどのような特性になるか、実験してみました。
出力がどのような演算結果になっているか、移相回路の計算式を拡張すれば、容易に得られます。オペアンプ部の演算は、G=RFB/RGとして、Vout ={(G+1)×Vin+}-(G×Vin-)です。入力をVin、ローパス出力をVLP、ハイパス出力をVHPとすると、RC回路がローパスタイプの場合は、
Vout ={(G+1)×VLP}-(G×Vin)= VLP-G×(Vin-VLP)= VLP-G×VHP
RC回路がハイパスタイプの場合は、
Vout ={(G+1)×VHP}-(G×Vin)= VHP-G×(Vin-VHP)= VHP-G×VLP
となります。
移相回路は、G=1ですが、上記の一般式を使えば、ゲイン誤差の影響を評価できます。
シミュレーションファイルには、ゲインを2、1、0.5とした回路を収めてあります。出力の特性を見ると、遮断周波数より高周波域(あるいは、低周波域)のゲインを増減するような特性となっています。
今回のまとめ
次回も、引き続き、移相回路の展開、応用を試みますが、今回の回路の有用な応用例について、もし、どなたかご存じでしたら、ご教授いただけましたら幸いに存じます。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、アナログ・デバイセズのサイトよりLTspiceをダウンロードしてご利用下さい。
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