
電気・電子回路におけるオペアンプ応用回路 -レベルシフト(1)-
目次
①はじめに
アナログ信号には、様々な「レベル」があります。「信号レベル」という場合、通常は、信号の大きさ(振幅)を表すことが多いと思われますが、「レベルシフト」の「レベル」は、信号振幅の中心電圧値を示します。
レベルシフトは、アナログ信号処理には、ほぼ、必須です。典型的な例を挙げれば、マイクから出力される音声信号、アンテナで受信された電波信号などの両極性信号を単電源動作の回路で増幅するためには、レベルシフトが必要になります。コンデンサによるAC結合が使えるならば、それほどの困難はありませんが、コンデンサ結合では、都合が悪いこともありますから、ここでは、DC結合オペアンプ回路のレベルシフトについて、具体的な例を取り上げて考えてみたいと思います。
②レベルシフトの具体例
反転アンプ、入力0V±0.1V、出力2.5V±1V
両極性信号を5V単電源オペアンプ回路で増幅することを想定した設定です。
シミュレーション
シミュレーションファイル「レベルシフト_反転_入力0V±0.1V.asc」を参照してください。
入力振幅±0.1Vを出力振幅±1Vに増幅するのですから、ゲイン(の絶対値)は10倍です。反転アンプ基本回路のまま(レベルシフトなし)では、出力は0V±1Vとなっています。シミュレーション回路では、理想オペアンプ回路ですから、そのまま出力されていますが、実際の5V単電源オペアンプでは、当然、0V以下はクリップされて出力されません。
出力の中心電圧値を0Vから2.5Vに「持ち上げる」ためには、オペアンプの+入力端に電圧を印加する必要があります。反転アンプを非反転アンプとして見ると、+入力端から出力へのゲインは11倍(反転アンプのゲインの絶対値+1)ですから、+入力端に加える電圧は、2.5V/11=0.227272・・・Vにすればよいことがわかります。
上記の計算結果をシミュレーションで確かめる方法をご紹介します。なお、この方法の原理を理解するには、オペアンプと抵抗4本で構成される差動アンプについての知識が必要です。まず、ゲイン10倍の差動アンプを構成します。抵抗値に制限はありません。Vin-に入力を接続し、Vin+は入力の中心電圧値0Vとします。Vref入力には、出力の中心電圧値2.5Vを印加します。この状態で、目的とする出力となっていることを確認し、オペアンプの+入力端の電圧を見ると、0.227272・・・Vになっている筈です。
反転アンプ、入力1V±0.1V、出力2.5V±1V
入力信号にDCオフセット1Vが存在する場合です。ある種のセンサ出力など、よく見かける信号形態です。前項と同じく、5V単電源オペアンプ回路で10倍増幅することを想定しています。
シミュレーション
シミュレーションファイル「レベルシフト_反転_入力1V±0.1V.asc」を参照してください。
入力の中心値1Vが反転10倍されますから、反転アンプ基本回路のまま(レベルシフトなし)では、出力は-10V±1Vとなっています。
出力の中心電圧値を-10Vから2.5Vに「持ち上げる」ために、12.5V/11=1.13636・・・Vの電圧をオペアンプの+入力端に印加します。
上記の計算結果をゲイン10倍の差動アンプ回路で確認してみましょう。Vin-に入力を接続し、Vin+は入力の中心電圧値1Vとします。Vref入力には、出力の中心電圧値2.5Vを印加します。この状態で、目的とする出力となっていることを確認し、オペアンプの+入力端の電圧を見ると、1.13636・・・Vになっています。
今回のまとめ
一般式を示しておきます。反転ゲインをG、入力オフセット電圧(入力中心電圧値)をVINofs、出力オフセット電圧(出力中心電圧値)をVOUTofs、+入力端に印可する電圧値をVsftとして、
Vsft=(VINofs×G+VOUTofs)/(G+1)
となります。
次回以降、引き続き、様々なケースでのレベルシフトを取り上げてみたいと思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、アナログ・デバイセズのサイトよりLTspiceをダウンロードしてご利用下さい。
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