
電気・電子回路における非線形回路 -交流信号乗算-
①はじめに
前回、乗算回路などの非線形演算回路を構築しましたが、それらは、正の値しか扱えませんので、両極性の交流信号の演算には、何らかの工夫が必要です。今回はこれについて、考えてみます。
②交流信号乗算のシミュレーション
単電源回路で交流信号増幅などを行う場合、交流信号に十分なDCオフセットを加えることで、信号範囲を正の領域に収めて処理します。これと同様の方法で交流信号の非線形演算を実現できると思いますので、いくつかの例で検討してみましょう。
交流信号×DC(正の値)
交流信号をVs、オフセット値をVofs、DC値をVdcとすると、2入力乗算回路に入力される値は、(Vs+Vofs)とVdcとなりますから、乗算回路の出力Voutは、
Vout=(Vs+Vofs)×Vdc=(Vs×Vdc)+(Vofs×Vdc)
となります。目的とする演算結果は(Vs×Vdc)ですから、補正演算は、
交流信号をVs、オフセット値をVofs、DC値をVdcとすると、2入力乗算回路に入力される値は、(Vs+Vofs)とVdcとなりますから、乗算回路の出力Voutは、
(Vs×Vdc)=Vout-(Vofs×Vdc)
とすればよいことがわかります。
シミュレーション
シミュレーションファイル「交流信号_DC乗算回路.asc」を参照してください。
入力信号は±0.5Vの正弦波、オフセット値は1Vとしており、乗算回路には1V±0.5V(0.5V~1.5V)が入力されます。DC値は1V~5Vまで変化させています。本来であれば(Vofs×Vdc)を演算するべきでしょうが、簡略にするため、オフセット値1Vに相当する固定ゲイン1として、(1×Vdc)を減算して補正しています。線形演算部分は、電圧制御電圧源を使っていますが、動作原理の確認が目的ですので、ご容赦願います。
この結果をみると、電圧制御の連続可変ゲインアンプとなっていることに気付きます。また、振幅変調器の動作とみることも出来ます。乗算回路の重要な応用例でしょう。
交流信号の2乗
交流信号をVs、オフセット値をVofsとすると、2乗回路に入力される値は、(Vs+Vofs)となりますから、2乗回路の出力Voutは、
Vout=(Vs+Vofs)×(Vs+Vofs)=(Vs×Vs)+(2×Vs×Vofs)+(Vofs×Vofs)
となります。目的とする演算結果は(Vs×Vs)ですから、補正演算は、
(Vs×Vs)=Vout-(2×Vs×Vofs)-(Vofs×Vofs)
とすればよいことがわかります。
シミュレーション
シミュレーションファイル「交流信号2乗回路.asc」を参照してください。
入力信号は±1Vの正弦波、オフセット値は1.5Vとしており、乗算回路には1.5V±1V(0.5V~2.5V)が入力されます。(2×Vs×Vofs)、および、(Vofs×Vofs)の演算は省略し、オフセット値1.5Vに相当する固定ゲイン3(=2×1.5)として、(3×Vs)を減算、さらに、オフセット値1.5Vに相当する固定値2.25V(=1.5×1.5)を減算して補正しています。線形演算部分は、電圧制御電圧源を使っています。
正弦波を2乗した出力の交流成分は、入力の2倍の周波数の正弦波となっています。また、直流成分は入力正弦波の振幅の1/2のDC値です。つまり、交流成分を取り出せば、周波数逓倍器となり、直流成分に着目すれば、検波器となります。このように、アナログ乗算回路は、いろいろな面白い応用があるのです。
交流信号×交流信号
これについては、一般式のみを示しておきます。交流信号をVs1、Vs2、オフセット値をVofs1、Vofs2とすると、
Vout=(Vs1×Vs2)+(Vs1×Vofs2)+(Vs2×Vofs1)+(Vofs1×Vofs2)
となります。目的とする演算結果は(Vs1×Vs2)ですから、補正演算は、
(Vs1×Vs2)=Vout-(Vs1×Vofs2)-(Vs2×Vofs1)-(Vofs1×Vofs2)
とすればよいことがわかります。
今回のまとめ
次回は、ログアンプとは異なる原理の乗算回路を取り上げる予定です。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、アナログ・デバイセズのサイトよりLTspiceをダウンロードしてご利用下さい。

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