
もし、後輩に「ディスクリートトランジスタの代表的な使用例は何ですか?」と質問された時、どのような回路を思い浮かべるでしょうか。
ある人はオープンコレクタ出力、また、ある人はエミッタフォロアのバッファアンプ、といった具合に、人により様々でしょうが、ゲイン100倍のアンプやフリップフロップを考える人は、極めて少ないでしょう。
多くの回路がIC化されている現在では、ディスクリートトランジスタの出番は少なくなっています。特にデジタル回路では、外部とのインターフェイスとしてのオープンコレクタ、あるいは、オープンドレインくらいでしょう。
トランジスタの動作原理や特性についての系統だった解説は、当塾の趣旨に沿うことではありませんので、それなりの教科書、参考書籍等に譲ることにして、当塾では、ランダムな「小ネタ」を提供したいと思います。
吉田兼好師の如く、「徒然なるままに、ひぐらしパソコンに向かいて、心に浮かぶよしなし回路を、そこはかとなく、シミュレーションしつくれば、・・・」の結果を徒然草ならぬ付属のシミュレーションファイルにまとめました。
本当は、「パソコンに向かいて」ではなく「半田ゴテを握りて」、「シミュレーション」ではなく「試作・検証」でなければならないと思うのですが、事情が許さないため、ご容赦のほどお願いします。
老婆心ながら一言。これらの回路について、一切、保証はありません。応用される場合は、ご自身での試作・検証結果によって、ご判断されるようお願いします。
1.オープンコレクタ
これは、トランジスタ初心者を想定しています。バイポーラトランジスタをスイッチとして使う際に注意すべき点は、「ONは速いが、OFFは遅い」ということです。もちろん、「速い、遅い」は、相対的なものですが、3種類の回路の差を確かめてみてください。
2.バッファアンプ
エミッタフォロアのバッファは、割と手軽に、高速、大電流出力が得られます。CCDイメージセンサの出力バッファとしては、定番のようになっていたようですが、今でも合理的な選択だと思います。また、エミッタフォロア単体だけでなく、オペアンプの出力電流ブースタとして応用されることも多いのではないでしょうか。私自身、かなりお世話になっています。負帰還のお陰で、あの「悩ましい」ベース・エミッタ間電圧の問題から解放されるのは、実にありがたいことです。
3.定電流源
LEDなど、定電流ドライブが望ましい場合、特性について、あまり細かいことを気にしなくてよいならば、ディスクリートトランジスタでの構成を検討する価値があります。「悩ましい」ベース・エミッタ間電圧の温度変化を積極的に利用して、LEDの発光効率の温度補償特性を持たせた回路例も示してあります。
4.ダイオード接続
番外編として、トランジスタをダイオードのように使ったときの比較をしてみました。実を言うと、今までに何度も使ったことがあるのですが、特性を調べたのは初めてです。
今回、MOSFETは取り上げていませんが、これは単に、扱った経験が少ないので紹介するほどの回路を思いつかなかったからです。現在の技術動向を考えれば、MOSFETの方がより重要であることに異論は無いと思われますので、機会があれば取り上げるつもりです。MOSFETの面白い応用回路をご存知の方は、ぜひ、お知らせください。
今回取り上げましたシミュレーションファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。