
第二回でオペアンプを取り上げた際に「オペアンプ回路の動作原理を理解するには、差動アンプを基本とするのがよい」と提言しました。今回は、オペアンプによる差動アンプの入力電圧範囲を考えてみたいと思います。
オペアンプICには、同相入力電圧範囲が規定されています。最近では、「レール・トゥ・レール」と呼ばれる、電源電圧範囲に等しい同相入力電圧範囲を持つオペアンプもありますが、一般的には、電源電圧範囲より狭い入力電圧範囲となっています。なお、「単電源」と謳われているものは、同相入力電圧の低電圧側が電源のマイナス側と同じになっています。
当然のことですが、同相入力電圧範囲を超えた電圧がオペアンプICの入力端子に印加された状態では、オペアンプとして動作できません。しかし、アンプ回路として構成された回路ブロックの入力電圧範囲は、オペアンプICの同相入力電圧範囲を超えることも可能です。
オペアンプ回路に不慣れな方は、「入力信号は、回路の電源電圧範囲内でなければならない」と考えるかもしれませんが、それは誤解です。もちろん、いくつかの制約はありますが、最初から諦める必要はありません。
5V単電源動作の非反転アンプを考えてみましょう。オペアンプICは「レール・トゥ・レール」タイプを使うとして、入力電圧範囲は、0V~5Vです。しかし、入力部分に抵抗分圧回路を使える場合には、5V以上の入力を処理できます。ただし、「入力インピーダンスは分圧回路の抵抗値」という制約はあります。また、反転アンプ構成として、+入力端子にオフセット印加すれば、マイナス電圧の入力を扱うことも可能になります。
付属のファイルには、両電源、および単電源の差動アンプ回路の入力電圧範囲を確認するための回路例が含まれています。抵抗定数、入力電圧値などを変えて「実験」してみてください。なお、入力範囲を超えた時の出力の振る舞いは、オペアンプICの型番によって、かなり異なることに注意してください。
実務において、設計の初期段階で「入力範囲に問題はない」ことを確認した場合であっても、油断は禁物です。心当たりのある方もおられるでしょう。そうです・・・、仕様変更があるに違いない(?)からです。私自身の経験でも、入力レベル、電源電圧、オペアンプIC型番、などの変更は、決して稀な事ではありませんでしたし、失敗の大半は、仕様変更後に「しでかして」いました。入力電圧範囲だけではありませんが、再確認を怠ったための失敗でした。特に、電源仕様が変更になったときは要注意です。
「仕様変更後の試作で問題なく動作した」からといって安心してはいけません。これは、オペアンプICに限ったことではありませんが、ICの規定値には「余裕」があることに注意しなければいけません。つまり、少々の仕様範囲外であれば、「動作してしまう」ことになります。 試作機の何台かが動作しないという場合、「不運」と考えるのではなく、「幸運」と思うべきです。問題の原因究明、および、その対策の機会が得られたわけですから。もし、問題があるにもかかわらず、試作機全数が正常動作したとしたら、量産時の不良続出、製品回収、などという悪夢に襲われることにもなりかねません・・・あな、おそろしや。
お互いに注意したいものですね。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。