
電気関係に馴染みのない人から、「電子機器には、どのような部品が使われていますか?」と質問されたとして、みなさんは、どのように答えるでしょうか。IC、トタンジスタ、抵抗、コンデンサくらいまでは、誰でも答えると思いますが、コイル、あるいはインダクタ、トランスを含める方は、少ないのではないでしょうか。電子技術者として仕事をしている「専門家」でも、電源関係、無線関係など一部の分野以外の方にとっては、インダクタ系(?)の部品は、馴染みのない「よそ者」といった感覚、苦手意識を抱かせるようです。
実用に供されている電子回路は多種多様ですが、その多くは、「機能を実現するために、インダクタを必要としない」回路ではないでしょうか。例えば、デジタル回路では、「機能的には」インダクタの出番はないでしょう。しかし、ノイズ対策を考慮しなければならない機器では、インダクタが大いに活躍している筈です。
ノイズ対策というと、外来ノイズを思い浮かべる方が多いと思いますが、ひとつの装置内、あるいは、一枚の基板内で、ある部分から発生したノイズが、他の部分に混入して誤動作することも稀ではありません・・・、否、極めてよくあることです。実際、このようなノイズ対策に費やされる時間の割合は相当なものでしょう。
インダクタ系のノイズ対策部品としては、あまり一般的ではないかもしれませんが、コモンモードチョークを取り上げてみました。現在では、チップタイプも製品化されており、手軽に使う事ができます。部品メーカの努力に感謝しましょう。
さて、コモンモードチョークの動作原理などは、参考書籍、メーカの資料を参照していただくとして、その効能を一言でいえば、「入出力間を高周波的に分離する」ことです。デジタル回路などで発生するスイッチングノイズは、高周波成分ですから、コモンモードチョークを挿入することで、グランドの分離ができることになります。これによって、リターン電流がグランド共通インピーダンスを流れることによるノイズの混入を低減することができます。
付属のシミュレーションファイルには、上記のノイズ混入メカニズムとコモンモードチョークの働きを「観測」できる回路を収めてあります。この回路について、若干の補足説明をしておきます。
1.出力側からは、一つのアナログ信号と二つのデジタル信号が出力されており、それぞれの信号ごとに、グランド線と対で入力側に接続しています。
2.接続線には、寄生インダクタンス、寄生抵抗が存在するものとして、それらをLp、Rpで表現しています。
3.Lp、Rpの値そのものには、こだわらないでください。あくまでも、現象を定性的に理解するための「実験」と考えてください。
昨今のデジタル回路基板は、高密度化、高速化を実現するため、4層以上の多層基板が一般的となっています。この多層基板では、内層にグランドプレーンを持つため、いわゆる、ベタグランドとしていることが多いようですが、高周波でのグランドインピーダンスは、意外に大きいようです。今回のシミュレーションでの信号波形と同じような、ノイズが混入した波形は、多層基板の回路でも、何回も見た経験があります。そろそろ、「グランド」という概念を捨てるべきではないか、と思います。
「インダクタと聞いただけでもうんざりする上に、コモンモード?・・・、酔狂がすぎる!知ったかぶりか!」と仰られる方もいるかもしれません。しかし、ことわざにもあるように、要は「習うより慣れろ」です。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。