
電子回路を扱うためには、測定器が欠かせません。実機をいくら眺めてみても、電圧、電流、抵抗など、何一つわかりませんから、測定器なしに回路動作を調べることは不可能です。なんらかの特性を評価するためには、その特性を測定しなければなりませんから、電子回路の技術レベルとは測定技術レベルである、といっても過言ではないでしょう。
しかしながら、高性能(高価)な測定器を使えば、技術レベルが向上することが保証される・・・わけではありません。対象となる回路、および、使用する測定器、さらには、測定時の(電磁的)環境についての深い理解と洞察がなければ、まともな測定すらできません。平たく言えば、「経験の乏しい初心者が高性能な測定器を使っても、平凡な性能の測定器を使う達人には及ばない」わけです。
さまざまな測定器のなかで、「これがないと話にならない」あるいは「これさえあれば何とかなる」測定器といえば、オシロスコープではないでしょうか。なんといっても、電圧波形をそのまま可視化してくれるわけですから、容易に回路動作を把握することができます。しかも、かなりの時間分解能があります。皆さんも、常日頃、最もお世話になっていることと思います。
さきほど、測定技術について触れましたが、オシロスコープも使う上で注意しなければならないことがたくさんあります。すべての注意点について解説することは無理ですが、いくつかの例を提示して参考に供したいと思います。
過去の失敗談です。あるアナログ回路をオシロスコープで動作確認していたところ、オペアンプが発振しているようでした。あれこれ対策するも効果なく、うろたえていた時、となりの席の先輩が、私の机の蛍光灯スタンドを消してくれました。これで解決してしまいした。発振波形と思い込んでいたのは、蛍光灯で発生したノイズでした。
過去の助言談です。この時は、私も少し進歩していました。レーザーダイオードが入手できるようになった頃のことで、後輩がレーザーダイオードに取り組んでいました。順調に動作しているようでしたが、なぜか、何の前触れもなく突然「つぶれ」てしまいます。見ると、オシロスコープのプローブを直接、レーザーダイオードの端子に接続して波形観測をしていました。私は、正常動作中に、後輩の机の蛍光灯スタンドをON/OFFしました。「つぶれ」ました。そこで、プローブと端子間に10KΩの抵抗を入れるように助言し、解決しました。
付属のシミュレーション回路は、スイッチング電源をオシロスコープで調べることを想定した例ですが、これについて少し解説しておきます。
一般的なパッシブプローブには、ワニ口クリップ付のグランドリードがありますが、このグランドリードの寄生インダクタンスと寄生容量が「曲者」です。グランドリードは10cmほどの長さですが、寄生インダクタンスは0.1μH程度と見積もることができます。寄生容量は10~20pFくらいでしょう。0.1μHと10pFならば、160MHzで共振します。そこに、スパイクノイズのような高速で立ち上がる電圧が印加されれば、160MHzのリンギングが生じます。
さらに、2チャンネル同時に波形観測しようとすると、プローブのグランド電流がグランドリードのインピーダンスによって、回路のグランドとオシロスコープのグランド間に電位差を発生させるため、互いの信号波形に影響しあってしまいます。ぜひとも、シミュレーションで確認してみてください。
どのような方法ならば、実際に近い波形を観測できるか、考えてみてください。この件に関しての質問があった場合には、多少のアドバイスはするつもりですが、まずは、自分で考えることが重要です。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。