
電子技術者を、アナログ回路技術者とデジタル回路技術者に「あえて」分けたとして、あなたは、どちらに属しているでしょうか。かなり多くの方が「デジタル」ではないか、と推測しているのですが、理由は単純です。電気・電子機器のデジタル化は、とどまる気配がないどころか、ますます加速しているようです。身の回りには、多数のデジタル電子機器が見受けられます。当然のことながら、これらの機器を設計・製造するためには、多くのデジタル回路技術者が必要とされるわけです。
デジタル回路で扱うデジタル信号は、矩形波(パルス)です。ICなどの能動素子の動作は、基本的にスイッチング動作です。このため、デジタル回路では、ノイズの発生が避けられません。前回取り上げた、熱雑音のような連続的なノイズではなく、インパルス性のノイズです。 かつて、デジタル回路が普及し始めた頃には、「デジタル方式はノイズに強い」などといった、ある一面しか見ていない、不見識極まりない「たわごと」を散見しましたが、現状は、ノイズによる誤動作の話題だらけです。外来ノイズによる誤動作の場合には、社会的力関係が優位であれば、「ノイズを発生するのはケシカラン」とノイズ発生側に対策の責任を押し付ける、あるいは逆に、「この程度のノイズで誤動作するのはケシカラン」と誤動作する側にノイズ耐性の向上を要求する、といった、圧力団体的解決法(?)も可能でしょうが、力関係が弱い立場であるか、設計の担当範囲内(同じ回路基板内、または、同じ機器内)で発生したノイズの誤動作では、自分で対策しなければなりません。今日も、どこかで誰かが四苦八苦しているに違いありません。余談ですが、「力が強い」かつ「高い技術をもっている」例は少ないようですが、気のせいでしょうか。
さて、矩形波についての基本的な特徴は、ご存じのことと思いますが、立ち上がり、立ち下り時間がゼロの理想矩形波は、現実にはあり得ません。実際の波形は、有限の遷移時間をもつ台形波になります。デジタル回路、デジタルICが高速であるかどうかは、この遷移時間の長短が目安になります。クロックなど信号の周波数ではありません。例えば、1MHzのクロックであっても遷移時間が1nSならば、かなりの高速信号と言えます。多くの場合、「大は小を兼ねる」ことはない、と断言してもよいと思っていますが、デジタル回路のスピードも、高速ならよいとは限りません。高速になるほど、ノイズが増えますし、消費電力も大きくなります。「必要かつ十分」を実現することが、まさに設計の本質です。74HCで十分ならば、74ACではなく、74HCを使うべきです。
矩形波を扱う上では、まず、時間領域で考え、特に遷移部分に注目するべきでしょう。付属のシミュレーション回路を参照してください。単純なパルス発生源とCR時定数回路ですが、遷移時間と時定数の比によって、波形が変化する様子を比較してください。遷移時間10nSの入力信号と時定数1nSの出力信号(Vout_10n_1n)に着目してください。この組み合わせで、遷移時間がほぼ10nS、遅延時間1nSの出力信号となっています。初心者が勘違いしやすい点ですが、「時定数10nSだから立ち上がり10nSのパルスまでOK」ではありません。Vout_10n_10nの波形はかなり「なまって」います。「時定数の10倍の遷移時間ならほぼ同じ出力」、これを一般的な知識として覚えておくとよいと思います。時間領域から周波数領域に翻訳すれば、「遷移時間を周期とする周波数の16倍の帯域ならアナログ的に相似」となります。パルス状のアナログ信号を扱う場合に、必要な帯域の目安となります。
前回の熱雑音について、物理的な補足をします。
出力電圧の絶対値と入力電圧との比、反転昇降圧比=出力電圧の絶対値/入力電圧、を決めているのは、スイッチングのON時間とスイッチング周期との比率、デューティーサイクルだけです。スイッチング周波数、インダクタ値、負荷電流には関係ありません。
kT≒hν、hはプランク定数、νは振動数(周波数)
つまり、量子効果によって、高い周波数が励起されなくなります。熱雑音の理論は、黒体輻射の理論と本質的に同じである、と私は理解しているのですが、間違っていたらご指摘をお願いします。