
電子回路の設計、部品選定が適切であったとしても、それだけでは、実機の性能・特性を保証できるわけではありません。たとえ、実績のある回路を同じ部品を使って作ったとしても、同じ特性となるとは限りません。場合によっては、まともに動作しないこともあり得ます。
これは、「実装方法が適切でなければならない」という「命題」で、皆さんよくご存知のことと思います。一般的には、プリント基板のパターン設計の問題です。回路設計には、参考となる回路が示されていたり、ある程度の理論的な設計方法がありますが、パターン設計では、指針となる「格言」があるくらいで、結局は「経験」が物を言うことになるようです。
私自身の経験を顧みると、パターン設計について解説する力量があるとは思えませんが、私なりに心がけているパターン設計手順をまとめてみました。初心者には、考え方の参考になるかもしれません。
パターン設計で必ず出てくる課題は、グランドパターンと電源パターンの処理です。特にグランドに関しては、「一点アース」、「ベタグランド」という矛盾する2つの方針が、ともによく示されています。これらは、それぞれに異なった意味があります。
「一点アース」は電源を含む電気信号のリターン経路が回路ごとに独立となるようにすることで、回路間の共通インピーダンスをなくして、不要な干渉を避けようとするものです。しかし、リターン経路が長くなるため「回路内」に寄生インピーダンスが増大し、回路動作、ノイズ特性(不要輻射、外来ノイズ耐性)に影響が出る恐れがあります。
一方「ベタグランド」は、グランドパターン自身のインピーダンスを小さくして、共通インピーダンスによる影響を無視できるようにしようとするものですが、ベタグランドパターンのインピーダンスは、特に高周波に対しては。思うほどには小さくならないようです。実際、ベタグランドのパターンに「切れ込み」を入れて、回路ブロック間のグランド分離をすると、クロストークと思われるスパイクノイズが減少することを確認した経験があります。
電源パターンについては、「太く短く」とよく言われます。もっともなことですが、信号周波数領域に対して適切なデカップリング回路が配置されていれば、直流抵抗が許容できる範囲で、細いパターンを使うこともできます。つまり、グランドパターンよりは、自由度があると言えます。
以下に、上記の注意点を踏まえた上での私なりの考え方を述べてみます。
まず、回路を幾つかのブロックに分けます。それぞれのブロック内ではベタグランドとし、ブロック間では、回路間の信号の性質によって、ベタとするか、一点アースとするか、その折衷案とするかを判断していきます。
普通には、IC1個と周辺回路を1つのブロックとします。ブロック内で最優先のパターンは、ICの電源ピンに接続されるデカップリングコンデンサです。これは、最短で電源ピンとグランドに接続します。また、ICのグランドピン、両電源のオペアンプなどではマイナス電源ピンのデカップリングコンデンサのグランド側をそのブロックの基準グランドポイントと考えます。
ブロック間のグランドパターンについては、全体の回路構成が千差万別ですので、一般的な考え方を示すことは不可能ですが、少なくとも、アナロググランドとデジタルグランド、および、パワーグランドは分離すべきです。分離したグランドは、一点で接続することが理想ですが、それが不可能で、グランドループが出来てしまう場合があります。
私が経験した事例では、CCDイメージセンサ基板が難物でした。CCDイメージセンサの出力をAD変換してデジタルデータとして取り込む回路ですが、CCDイメージセンサを駆動するクロックなどのデジタル信号を供給しますので、デジタル→アナログ→デジタルという信号の流れとなり、グランドループが避けられません。ノイズ混入による画質の悪化は、得られた画像を見れば一目瞭然です。
このような場合は、信号用のコモンモードチョークを使う、差動ライン駆動とするなど、回路にグランド分離の「仕掛け」を取り入れる必要があるかもしれません。要求される性能が厳しい場合には、必須要素と言えるでしょう。
今回は、まとまりに欠ける内容になってしまったことをお詫びします。少し言い訳を許してもらえるならば、「パターン設計は難しい」ということです。丹念に注意を払い、経験を積むことで「腕を磨く」しかないようです。