
前回、可変高電圧出力回路のシミュレーションでは、マクロモデルの関係で、コレクタ耐圧が低すぎるトランジスタを使いました。シミュレーションには支障がありませんでしたので、理解し易さを優先して、トランジスタ1石の単純な回路にしましたが、この回路では、入手可能なトランジスタの耐圧によって、扱える電圧が制限されます。そこで、この制限に対する解決策として、カスコードアンプを考えてみました。
カスコードアンプは、真空管の時代に、高周波特性を改善するために考案された回路です。もちろん、トランジスタやFETを使って構成することもできますし、優れた回路(らしい)です。回路構成を簡単に説明すると、エミッタ接地アンプとベース接地アンプを縦続接続した回路です。もともとの目的は、高周波増幅ですが、2個のトランジスタが電源電圧を分担するような接続となっていますので、高耐圧回路として応用できるようです。
私は、カスコードアンプを高耐圧アンプとして使った経験がありませんでしたので、シミュレーションで、動作を調べてみました。結果は、「予想外」で「びっくり」しました。
シミュレーションファイル「カスコードアンプ.asc」を参照してください。一番左の回路は、比較のためのトランジスタ1石のアンプです。
左から2番目は、理想的なベース接地回路を縦続接続したものです。ベース電圧を75Vとして、最大電圧を半分ずつ分担させる作戦です。入力(Vin)が上昇するにしたがって出力(Vout_2)は下降しますが、ベース接地トランジスタ(Q3)が飽和すると一定値となり、応答しなくなります。この特性は、予想通りでした。
実用回路としては、ベース電圧は、抵抗分圧で与えることになるでしょう。通常、理想的なベース接地動作に近づけるため(ベース電圧の変化を少なくするため)、分圧回路にはベース電流の10倍以上の電流を流すような抵抗値とします。左から3番目の回路では、100KΩ+100KΩとしていますが、十分過ぎる値でしょう。
出力(Vout_3)を見てください。飽和して、応答しないはずの部分で、出力が応答しています。「予想外」で「びっくり」しましたが、「アンプとしては、飽和せずに応答して欲しい」わけですから、トランジスタとして尋常ではない動作であっても利用価値のある異常動作(?)でしょう。
一番右の回路は、分圧回路の抵抗値を1MΩとして、飽和領域の出力応答をより大きくした回路です。実際に試作してみないことには、本当に動作するかどうか、トランジスタが「破裂」しないか、確信は持てません。
シミュレーションファイル「可変高電圧出力回路_2.asc」を参照してください。オペアンプ+カスコードアンプで構成した高電圧出力アンプです。
理想的ベース接地回路を使った出力(Vout_2)には、飽和が見られますが、他の回路は、きれいな入出力特性となっています。一瞬ですが「びっくり」しました。オペアンプの「がんばり」のお蔭で、分圧抵抗100KΩの回路でも出力の応答が改善されていました。
今回調べた回路は、あくまでも、「シミュレーションでは動作する」ことを「限られた範囲で確認できた」に過ぎません。実際に試作してみたら「電源オンオフで壊れた」などの不具合が起こるかもしれませんが、実用化に取り組むに値する回路ではないかと思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。