
放熱対策を考えるには、熱の伝わり方についての理解が不可欠です。初歩的な熱物理の知識ですので、ご存じのことと思いますが、熱の伝わり方には、伝導、対流、放射があります。
場合によっては、放射が主たる放熱手段となることもあるでしょうが、通常の電子機器の放熱対策では、主として、伝導と対流を考慮します。室温程度の温度範囲では、熱放射による寄与が小さい(と言われている)からですが、実際にどの程度なのか、検討してみました。
熱放射の理論的基礎は、黒体放射の理論(プランクの法則など)として確立されていますし、放射温度計やサーモグラフィーといった、熱放射現象を応用した機器も一般化しています。なお、理論の概要・詳細については、専門書などを参照してください。また、ネットで検索すれば、すぐに(ウィキペディアなどで)見つかります。
放射による放熱を考える際に、最も重要なのは、シュテファン=ボルツマンの法則です。この法則によると、「放射エネルギーは、絶対温度の4乗に比例(比例定数はシュテファン=ボルツマン定数)」であり、容易に放射エネルギーを計算できます。
半導体素子などでお馴染みの温度範囲を10℃ステップで、1平方メートルあたりの放射エネルギーを計算した結果を示します。
温度 放射エネルギー 25℃との差
25℃(298K) 447W 0
35℃(308K) 510W 63W
45℃(318K) 580W 133W
55℃(328K) 656W 209W
65℃(338K) 740W 293W
75℃(348K) 832W 385W
85℃(358K) 931W 484W
放熱に寄与するのは、周囲温度25℃として、各温度でのエネルギー値と25℃でのエネルギーとの差です。これは、周囲の物体から周囲温度での熱放射があり、それを吸収するからです。
表面積が1平方メートルの機器、あるいは、放熱器では、上記の放熱特性が得られるわけですが、この値は、無視してよいのか、重要なのかは、個別の機器ごとに判断するしかありません。
少し、身近な例を考えてみましょう。私が今使っているノートパソコンのサイズは、377mm×256mmですので、側面を無視して、表裏2面で約0.19平方メートルです。放射率は0.7くらいあるものとし、表面温度45℃の場合を計算すると、133×0.19×0.7=17.689Wとなり、意外に大きいと思うのは私だけでしょうか。
次に、40mm×40mmの基板について計算してみましょう。放射率は0.7、基板温度は少し高めの55℃とします。
209×0.04×0.04×2×0.7=0.46816Wとなります。これは、無視できないような気がします。この例について、熱抵抗を計算すると、20/0.46816≒43(℃/W)
ですから、「そこそこ」の放熱特性があるといえるのではないでしょうか。
今回の計算結果は、私自身、「目からウロコ」でしたので、次回は熱伝導について検討してみようと思います。