
電気・電子回路におけるオペアンプ応用回路 -2段増幅(2)-
①はじめに
前回、ゲインを増大し、かつ、十分な周波数特性を得るために、2段増幅構成とする方法を検討しました。その考え方のバリエーションとして、ゲインはそのままで、周波数特性を改善(遮断周波数を高く)することを考えてみます。
②実用回路設計に必要な検討事項
2段増幅、同じゲインでの周波数特性改善
比較するのは、前回と同じくゲイン10倍の反転アンプです。使っているオペアンプICの特性は、オープンループゲイン100dB、GBP(利得帯域幅積)1MHzです。
シミュレーション
シミュレーションファイル「反転アンプ2段_ゲイン_10.asc」を参照してください。
同じオペアンプICを使って、ゲイン3.3倍と3倍の反転アンプ2段構成で、ゲイン10倍としています。
AC解析の結果を見ると、確かに遮断周波数fc(-3dB)は高くなっていますが、90KHzから150KHz程度の改善でしかありませんので、それほど有用とは言えません。
この改善の程度について考察してみましょう。遮断周波数は、fc=GBP/(反転ゲイン+1)で計算し、2段縦続して2次特性となったfcは、元の0.64として概算します。
前回の場合では、ゲイン100倍の反転アンプ1段とゲイン10倍の反転アンプ2段との比較です。1段の遮断周波数をfc1、2段の遮断周波数をfc2、改善比率をfc2/fc1で評価すると、
fc1=GBP/(100+1)
fc2={GBP/(10+1)}×0.64
fc2/fc1={(GBP/11)×0.64}/(GBP/101)=(101×0.64)/11≒5.9
となり、6倍弱の改善です。
今回の場合、ゲイン10倍の反転アンプ1段とゲイン√10(≒3.16)倍の反転アンプ2段との比較として計算します。上記と同様にfc1、fc2、fc2/fc1を計算すると、
fc1=GBP/(10+1)
fc2={GBP/(3.16+1)}×0.64
fc2/fc1={(GBP/4.16)×0.64}/(GBP/11)=(11×0.64)/4.16≒1.7
となり、2倍未満の改善にしかなりません。
シミュレーション
シミュレーションファイル「非反転アンプ2段_ゲイン_10.asc」を参照してください。
非反転アンプ2段の回路を収めてありますので、周波数特性を確認してください。さらに、改善比率を計算してみることをお勧めします。
上記の計算を見ると、全体のゲインがある程度大きくないと有意な改善が期待できないことが分かります。
また、余談ですが、「遮断周波数が90KHzから150KHzに改善されたのであれば、たとえば、100KHzの信号を扱う場合などには、十分な効果があると考えてよいのではないか?」とのご指摘があるかもしれませんが、数字に頼りすぎるのは要注意です。
オペアンプICのデータシートに記載されているGBP値は、ほとんどの場合、「Typ.値」であり、かつ、25℃でのものです。個体差、温度変化などを考えたときには、必ずしも安心とは言えないでしょう。
もちろん、周波数特性に限ったことではありませんが、「どの程度の余裕を織り込んだ設計をしているか」は、設計者の個性が垣間見える部分ではないかと思います。
今回のまとめ
次回も、2段増幅について、引き続き取り上げてみたいと思います。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、アナログ・デバイセズのサイトよりLTspiceをダウンロードしてご利用下さい。
当社が運営している、電子部品・半導体ECサイト『オリナス.ネットhttps://www.olinasnet.com』では、アナログ・デバイセズ製のオペアンプを在庫しております。各部品は小ロットからの販売はもちろん、不具合解析や環境調査も対応可能でございますので、ぜひ、こちらのサイトもご覧下さい。