
一般的に利用可能な電源の代表といえば、AC100Vでしょう。一方、半導体素子を使った電子回路に必要な電源電圧は、DC数V~数十Vですから、AC100Vを入力とする電源回路が必要となります。
現在では、スイッチング方式の電源が普及していますが、かつては、電源トランスを使った回路が普通でした。もちろん、現在でも使われています。
トランス方式の電源回路は、スイッチング方式に比べて部品点数が少なく、回路動作も理解しやすいですから、「電源屋さん」でない方であっても、簡易な電源の基本設計くらいは「こなせる」ことが望まれます。
1)平滑コンデンサの役割と関係について
簡易な電源回路として、電源トランス、整流ダイオード、平滑コンデンサ、3端子レギュレータで構成される回路を考えてみましょう。それぞれの構成要素の基本的な役割は理解しているとしても、初心者が設計する際に「途方に暮れる」のは、平滑コンデンサの容量値ではないでしょうか。
平滑コンデンサの役割は、整流された脈流のリップル成分を除去(減少)することですが、コンデンサの値とリップルの大きさの関係を示しておきます。
コンデンサの充放電が繰り返されることで、蓄積電荷量が変化し、電圧が変動してリップルとなります。放電電流は、負荷電流です。したがって、以下の関係式が成り立ちます。
ΔV=ΔQ/C
ΔQ=I×t
C=I×t/ΔV
ΔV:リップル電圧(pp)、I:負荷電流値、t:放電時間、C:コンデンサ容量値
2)平滑コンデンサ容量値の見積もり
具体的な例で、計算してみましょう。負荷電流は100mAとします。リップル電圧は、後段に3端子レギュレータを使うとすると、1Vppくらいは許容されると考えます。放電時間は、60Hzの全波整流ならば(大ざっぱな目安として)、4.2mS<t<8.3mSとなりますから、容量値の見積もりは以下のようになります。
100mA×4.2mS/1Vpp < C < 100mA×8.3mS/1Vpp
420μF<C<830μF
3)シミュレーションファイルでの見解
シミュレーションファイル「トランス式電源の平滑回路.asc」を参照してください。上記に示した例の確認ができるような回路を収めてあります。この回路について、少し説明しておきます。
入力電圧源は、トランスの2次側を模したつもりです。かなり簡略化した近似ですが、出力抵抗を挿入し、100mAの負荷電流を流した時、AC9Vとなるような電圧値、出力抵抗値としています。後段に5V出力の3端子レギュレータを接続することを想定したものです。また、負荷として電流源を使っているのは、やはり、3端子レギュレータを考慮した結果です。
シミュレーションの結果を見ると、平滑コンデンサ470μFの回路で、ほぼ、リップル電圧1Vppとなっており、計算の妥当性が確認できます。
シミュレーション回路の全波整流回路を半波整流回路にした場合について、ぜひとも、調べてみてください。その際には、負荷電流値を半分の50mAにして比較してください。
今回取り上げましたサンプルファイルを使うには、リニアテクノロジーのサイトよりLTspiceIVをダウンロードしてご利用下さい。